干し柿とラン


 


 昨夜、ランがげろげろと戻した。
晩ご飯で食べたドッグフードが胃液にふやけて床の上に出ている。
どうしたん?
何か悪いもの食べた? 変なもの食べたのか?
ランは神妙な顔をして、また毛布の上に身体を伏せた。
それにしては吐いたものの量が多い。おかしいな。何を食べたんだろう?
しばらくして、また吐いた。
ますます不可解。昼間は外でリードにつながれている。
食事以外に食べてはいないはずなのに。
かあちゃんが、吐いたのを観察した。
干し柿やあ。」
すっとんきょうな声を発した。
ええーっ、そうかあ。干し柿かあ。
ここ二、三日、柿を吊るしてあるところで作業するから、一時的に柿を移動した。そこは昼間ランの過す日当たりのいい南の軒先だ。
そこでは、干し柿の一部がランの口の届くのだが、ランは、干し柿は食べたことがないから、大丈夫食べないだろう、と思い込んでいた。
ランも最初ちょっと鼻でかいでいたが、食べる気もなかった。
ところが、やっぱり食い意地の張ったランはぱくついたのだ。
吐いたものを拭い取り、きれいに後始末して、様子を見る。
まず嘔吐は収まったかな、就寝しよう、と思ってパジャマに着替えたらランはまた吐いた。三回目。
身体が冷えないようにガウンを着て、またまた後始末。
夜中は吐かなかったが、ことことランのトイレに行く音がしてウンチを一回した。
夜中のトイレも最近ではなかったこと。よっぽどたくさん食べたらしい。
朝になって、散歩に連れて行った。お腹をこわしているからどうかな、と思いながらも、いつものコースを歩いた。
するとまだ症状は続いていた。途中で少し黄緑色の液体状のものを吐いた。吐くものがないから胃液のようだ。
ラン、朝ごはんはなしだよ。しばらく絶食だ。
いったいどれだけ干し柿を食べたのか、かあちゃんが吊るしてあるのを調べてみたら、15個もなくなっていた。
15個も食べたのかあ。こら、ラン、お前はアホかあ。そんなに食べたらとんでもないぞ。
「食べることのできる所に置いておいたのが悪いよ。」
と家内は言う。
「しかし食べるとは思わなかった。」
「なんでも食べられるものは食べるよ。」
うーん、そうかあ。
ランは甘いものに目がない。以前車の中に乗せておいたら、トランクの箱のなかに入れてあった上等のチョコレートを食べられた。アップルパイも食べられた。
今日もランは一日外で過し、午後3時半にかあちゃんがランを連れて散歩したら、まだ少し中身がない液体を吐いた。
晩ご飯もなし、かわいそうだがしかたがない。
言葉が話せないランは、真剣な眼で正座して夕ご飯を待っている。
「今日は、なしだよ。お前、干し柿たくさん食べたもん。なし、なし。」
ランに言い聞かせる。ランは罰の悪そうな顔をする。そしてまた神妙に待つ。
そのうちに、観念した。
待つことを止めて、身体を丸くして寝た。
何が原因でこういうことになったのか、犬は因果関係を認識することはできないだろう。
だが、何か分かるらしい。
今日はご飯はもらえない。そのことを察知したランは、自分の寝床のあるところへ行って、空腹のまま眠りに付いた。
「あした、よくなったらご飯あげるからね。」