干し柿

 鳥たちへの贈り物


日曜日は地区自治会の共同作業日だった。
午前8時から各班が分担して農業水路の掃除をする。
当地区は十数人がそれぞれ水路沿いに歩きながら草を刈ったり、水路をさらえたり。
作業に来ておられたイワオさんの奥さんが、
「柿、私の家の分は採ったから、採りに来ましょ」
と声をかけてくださった。
以前から今年も柿をどうぞと言ってくださっていたので、待ってましたとばかり午後洋子と二人でいただきにいった。
イワオさんの柿は平種無しで、大きな木が三本ある。去年いただいて干し柿にしたところ、その味たるや人間の作るいかなる菓子類もこれにはかなわないと思うほど甘くてうまかった。
洋菓子にしろ和菓子にしろ、うまいものはたんとあるが、この自然のもたらす妙なる絶品に勝るものはない。
一口食べたときの口に広がる香りとコクのある甘さ。
柿の木の精が生み出した渋柿が、小春日和も、霧の日、霜の日、雪の日も、軒に吊るされ、太陽光、風、冷気にさらされて、熟成されてきたうまみ。
食べ終わっても口の中に甘味が余韻のように残っている。


「柿をいただきに来ましたあ。」
「ほいほおい、私も一緒にとるで。」
イワオさんは、はしごや、腰に吊るす籠などを準備して、軽トラックを動かし、柿の下に車をつけた。
「来年の剪定を兼ねて、ばっさり枝も一緒に切っとくれ。」
イワオさんははしごを、張り出した太い木の枝に立てかけてくれたので、それに上ってはさみで小枝ごと柿の実を切り取る。
切り取った柿を、下に待ち受けている洋子の両手めがけて落とす。
木のてっぺんあたりの実は、手が届かない。
下から高枝切りも使って、実を切り取る。
イワオさんは、軽トラの荷台に脚立を置いて実を採る。
腰の籠が一杯になると、コンテナに移す。
三人の作業でコンテナはたちまち満杯、計3コンテナ分の収穫となった。
「こんなにもいただいて、いいのですか。」
「いや、木に残しても鳥の餌になるだけだで。」
恐縮しながらありがたく頂戴することにした。


家に帰ってからの作業は、柿の皮をむいて、ひもでぶら下げる。
二晩、二人の夜なべ仕事になった。
包丁で、くるくる皮をむき、ひもに取り付けていく。
やりきって軒に吊るす。
黄色い柿すだれが軒下に出来た。


正月には息子たち夫婦に孫たち、友人たちがこの絶妙の干し柿を味わうことになる。
イワオさんに感謝感謝。
今度イワオさん家に、我が家でふっくら焼いた大きな天然酵母パンを持っていこう。