古タタミを再利用

   <藁(わら)はスゴイ>



工房の一角に古畳を敷く段階になって、
寸法が合わないので、一部を切り取って縁を縫い合わせることした。
畳はSさんの家でいらなくなったのがあり、
「どうかね、工房で使わないかね」
と声をかけてもらって、Sさんが軽トラックで運んできてくださった。
「DO IT YOURSELF]、
これまでブロック積み、大工、屋根葺き、サッシ付け、塗装、樋(とい)付け、なんでも自力でやってきた。
今度は畳職人。畳もなかなか手ごわい。
そこは6枚の畳を敷くには狭い。寸法に合わせて、まずは4枚をそれぞれ一部分切り取って縮小しなければならない。
古畳の床は、昔からの伝統的な完全な藁づくり。
畳の寸法は約1間×半間、その1辺を10センチほど切り取る。
厚みは6センチある。
家にある小刀、カッター、布切り刀などを用意し、砥石でといで切ってみた。
が、ぎっしり固められた藁の集合体にはどの刃物も役に立たない。
畳職人はすぐれた道具を使うが、素人の一回限りの作業だから身の回りのもので勝負しなければならない。
切れない、切れても力いっぱい出しても少しずつだ。
畳って、こんなに固いものなのか。
ほとほと困り果てて、鋸を使うことにした。
目の細かい鋸を使って切ってみると、なんとか切れていった。
それでも一辺を切り取るには力が要る。
はあ、えらいなあ、そうだ、電気の円鋸でやってみたらどうだろう、
ブイーン、小型電気鋸は回転して、藁くずをはねちらしていく。
ところが、材木を切るよりも切れ味が悪い。
そのうちに変なにおいがしてきた。
モーターが焼ける匂いかな、これはいかん。
そこでそれもやめた。
畳ってすごいものだなあ。
藁に舌を巻く。
1枚切れたところで、寸法が1センチほど長いことが分かり、その分を切り取ろうとしたら、やっかいもやっかい、微調整ができないのだ。
端のほうは藁がばらけて柔軟になり、藁が逃げて切れず、鋸を使っても同じ。
悪戦苦闘する。
藁がこんなに強靭なものとは。
なるほどなあ、と納得するものがある。
わらじ、わらぞうり、わら縄、わらの箒、莚(むしろ)、わら屋根、俵(たわら)、昔から生活に切っても切れない藁、それはこの強さなのだ。
エンドウなどの蔓を這わせるのには藁を一本一本使った。ひも代わりに結わえるのにも一本ずつ使った。
「ふご」というのもあった。藁を円筒型容器に編んで、物を入れたり運んだり、お母さんが仕事をしている間、赤んぼを中に入れておいたりした。
藁は古くなれば、畑で土に還って肥料となった。


感心しながら畳の加工の難しさに途方にくれ、時間のかかる作業になった。
切り取る作業の次は、縁を縫いつける第二段階、タタミ針を使った。
タタミ針は、ホームセンターやスーパー、農協の店など数軒回っても売っていない。
やっと一軒のホームセンターで見つけた。
畳の縁がばらけないように、タタミ針を使って糸で縫いつける。
針を刺し込む角度というのがあることが分かった。しっかり効き目のある角度がある。
綿手袋を二枚はめ、手のひら側に古靴のかかとを切り取って円くしたのを一枚目の手袋と二枚目の手袋の間にはめこんだ。
針を打ち込んで押し込むとき、この針受けで針の頭を押すと痛くなく、力を入れることができる。
職人さんがやっている畳作りを、子どものころ飽きずに眺めていたのがここで生きてきた。
なんとか一枚出来上がって敷いてみたら一枚目は寸法合わずやり直し、二枚目はばっちり合格、三枚目はまたまた完全やり直し。
失敗を繰り返しながら、修正修正、疲れるなあ。腰が痛いし、足が痛いし。
それでも、隙間のないように畳が敷けそうな感じだ。
畳を敷く箇所は二箇所ある。まだまだ時間がかかる。