屋根張り、無事完了




棟上げがすんでから、また一人で工事をすすめている。
今日、難関の屋根張りを、なんとかやり終えることができた。
屋根材のガルバリウム鋼板の波板は、通販でとりよせたのだが、かなり格安だった。
カラートタンは、それより少し安いけれど、さびたりして長持ちしないのに比べ、
ガルバリウム鋼板生地の屋根材はアルミ合金で、安くて、加工がしやすく、10年経ってもさびがこない強靭さがよい。
建物づくりで大いに参考にした書物が、『100万円の家づくり  自分でつくる木の棲み家』(小笠原昌憲 自然通信社)だった。
とてもすばらしい本で、プロでもない人が実際に家づくりをしながら、ノウハウを高めていった体験にもとづき、
丁寧にわかりやすく、かゆいところに手の届くように書いてくれている。
そのなかに、ガルバリウム鋼板の絶賛が書かれていたから、
ぼくは3年前、初めてガレージづくりに使った。
著者は、自分で「風の学校」や養鶏場の建物など、いくつも建てている。


切妻の工房の屋根の片側は傾斜が急で、もう一方はゆるやかだ。
急な方の傾斜度は30度ぐらいかな。
急な方から波板張りを進めた。
長さ9尺、幅2尺の波板を19枚、
上げるとき、屋根と地面の中間に渡した足場にぼくが立ち、洋子が下から1枚ずつ上げてくれるのをつかんで、屋根の上に押し上げる。
波板は、屋根の軒に打ち付けた横木がストッパーになって、落下しないように工夫した。
上げ終えて、1枚ずつ屋根の上に並べていく。
いちばん怖いのは、屋根が急なために、スリップすることと、
もう一つは、風。
風にあおられると、金属の波板がひらりと飛んでいく。
2度、それが起った。
そんなに強風が吹いたわけではないのに、
とつぜん屋根に置いた波板の1枚がふわりともちあがり、飛んでいって落下した。
風は局所的に吹くから、その部分だけが強く吹き、さらに波板の置き方が下に風をはらむようになっていたのだろう。
落下した波板は、下にあった木材にぐさりと突き刺さり、
身のすくむ思いがした。
人がいたら、とんでもないことだ。
屋根張りの間、風よ、吹くな、と祈るような気持ちだった。
急な方の屋根は、風とスリップで必死だった。
屋根から落ちて大怪我なんてことになりはしないかと、思ったりもする。
そこで考えた。
屋根張り用に木のはしごを作って、その上端を棟木にビスで固定し、その上をつたって工事しよう。
そうして作ったはしごに乗り、波板を寸法を合わせながら、傘釘で打っていった。
1枚の波板に打つ傘釘は、40本ほどだ。
クロバットのような姿勢で打たねばならないところもあった。
この急傾斜に3日かかった。


そしてもう一方の側、
こちらは少しゆるやかで、南に面している。
ルーフィングの上に波板を打ち付けるための貫板をはり、防腐剤を塗る。
直射日光が降り注ぐ。
下地にはってあるアスファルトルーフィングがぐんぐん熱を帯びてきた。
地下足袋を通して、熱はじりじり足裏に伝わってくる。
こりゃ、フライパンの上で焼かれるようだ。
ルーフィングのアスファルトが溶けて、歩けば足型ができるほどになった。
午前10時を過ぎ、次第に足がやけどしたようになってきた。
「熱いトタン屋根の猫」だあ。
もう日中はできない。
午後、4時再開、下地完成。


波板張りの日、7時から開始。
波板の持ち上げは、一人で行なった。
足場をつくって、その上に数枚置いて軒に立てかけ、それからはしごで上に上って、引き上げる。
この繰り返しで38枚を運び上げた。
夕方から雨が降るという天気予報だった。
天気が変わる前には風が吹くかもしれない。
はやくやらねば危ない。
食事とトイレのときだけ屋根から下りるが、あとは屋根の上。
突貫工事だった。
波板が重なるところに打ち付ける傘釘は、なかなか貫通しない。
今日中に張り終わらねば、と急ぐ。
雨雲が広がり始めた。
夕方近く、とうとう最後の4枚になった。
そこで判断がまちがった。
上り下り用のはしごを立てかけてあるところに張る1枚は最後に張ることして、
張り進めてきた方角と逆の東から、残りを張ってしまった、
そこに寸法の狂いが生まれる原因が生じた。
最後、はしご前の1枚を張ってから、狂いに気づいた。
原因は心境だった。
夕方5時が過ぎていた。
急がなければならない。
屋根の上は、ほとんどガルバリウム鋼板の金属波板でおおわれていて、
スリップの危険がある。
焦り、緊張感、疲労、恐怖感、
それらが判断を狂わせた。
気分がリラックスして、余裕があれば、防げた間違いだった。
このまちがいをきっかけにして、屋根から下りた。
あした、最後の3枚を修正しよう。


冷静に考えれば、分かることだった。
一方から張り進め、同じ方向で継続すれば、
つながりに誤差を生じないですんだことだった。


やっぱり心身リラックスして集中する、
岩登りもそうだった。
恐怖感や焦燥感があれば、体が動かなくなる。
それがあやまちをおかす。
今日は終わり。
ゆっくりやろう。