チャコは小犬、チコはもっと小さい。2匹を連れて家の前まで散歩してきたMおばさん、
「たまげたー。」
庭の畑を見て叫んでいる。
何なに?
「おどけたあ、おどけたあ。」
「おどけた」というのは驚いたということかな。
「よくまあ、こんなにみごとに出来たもんだ。おどけたあ。」
トマトは、一株に20個ほどもつやつや稔っている。
シシトウはじゃんじゃん鈴なり、
キュウリは青々と蔓を茂らせ実を太らせている。
このごろ、ランは昼のおやつにキュウリを1本の半分ぐらいをやったら、かりこりとうまそうに食べる。
「水やり、毎日やっていたねえ。」
ぼくが毎日農業水路から水をタンクに入れて、一輪車で運んでいたのを、おばさんはどこかで見ていたか。
「すごいねえ、すごいねえ。」
おばさんの感嘆の声はおさまらない。
「キノコの菌床と木のチップを入れたんだよ。」
炭素循環農法のことを話した。
「まあ、おどけた。下から上まで青々しているねえ。緑が濃いねえ。
うちの野菜は、ひどいもんだ。トマト、だめじゃあ、インゲン枯れちゃった、サトイモも葉っぱ枯れてきて。
水やらんかったでねえ。
このトマト、こりゃあ、プロなみだよ。」
ひとしきり叫んで、バイバイ、
おばさんはチャコとチコを連れて道を上っていった。
畑の、キャベツを収穫した後は今は何も植えていない。
そこにジャガイモがにょきにょきと一本生えてきて、葉を茂らせた。
昨年の収穫時に取り残した小芋から勝手に生えてきたものだが、
それを掘ってみたら、大きなのが入っていた。
と、ころりと出てきたものがある。
ありゃ、何だ?
こりゃ卵じゃないか。
白い鶏の卵?
なんで、畑に鶏の卵があるんや。
なんでやあ。
瀬戸物の卵かあ?
いや、ちがう、本物や。
木のチップに混じっていたものかなあ。
白さの中に、少し灰色、ブルーがあるように見える。
うーん、分からん。
児童館にそれを持っていった。
サルタさんに見せたら、
「恐竜の卵かもしれんよ。」
理科の先生のサルタさんにも分からない。
亀の卵はまん丸だが、これは鶏の卵のように片一方が細くとがっている。
そこへ役所のUさんがやってきた。
「あらー、この前、TVで見たことがありますよ。なんだったかな、東北地方で、畑から卵が発見されたんですよ。」
何かの動物が畑に埋めた、とか。
インターネットでUさん調べてくれた。
「カルガモの卵を、キツネか何か、動物が畑に埋めておいたものらしいですよ。」
ははあ、そういうことかあ。
カモはいるよ、このあたり。
キツネもいる。
それにしてもキツネかタヌキか、アライグマかハクビシンか、
どうして卵を食べないで、保存しようとしたのだろう。
カモは、このあたりの休耕田に水をはっているからよく姿を見かける。
カモの卵なら、うなずける。
しかし、カモは、この田んぼのどこに巣を作っているのだろう。
畔につくれば、外敵にやられる。
いちばんこわいのは、カラスだ。
不思議は消えない。
卵は畑に戻した。
「埋めた動物がやってこないかな、見守るといいよ。」
とサルタさんが言う。
来そうにない。