サッカーのワールドカップ南ア大会が始まり、
朝日新聞に掲載されていた記事をコピーして、生徒たちに読ませた。
新聞の切抜きや、TVのドキュメンタリーの録画など、
その折々の時代や社会を切り取って授業の中へポンと投げ込み、教材とする、
僕のよく使う手法。
今盛り上がるW杯も素材になる。
南アフリカ代表のチャバララ(25歳)は、ヨハネスブルクの旧黒人居住区に生まれた。
南アというアパルトヘイト(人種隔離政策)の国、
そこで彼は育つ。
サッカーを始めた年が8歳だったから背番号が8。
貧しい家に家族7人で暮らしていた。
舗装されていない家の前の道路で、ボロボロのボールをけった。
貧困、失業、犯罪、エイズ、
彼はサッカーをすることで、麻薬や犯罪から救われたという。
冬の日、お湯の出の悪い台所で食事を作っている祖母に声をかけたことがあった。
「いつかW杯に出る。そうしたら新しい台所をプレゼントするよ。」
彼は、旧黒人居住区の星となった。
170センチの小さな身体だが、左サイドから韋駄天のごとく駆け上がるプレイは少年の時からのスタイルだ。
2006年、チャバララは南アチームに代表入りし、W杯に出場。
祖母への約束を果たした。
この新聞記事を元に、
生徒たちには、アフリカの置かれてきた位置を直視してほしい。
今も抱えている問題を考えてほしい。
偏狭な勝ち負けのみで一喜一憂しないでほしい。
S君がこんな感想を書いた。
S君は、大きな身体をしているが、気が弱い。
学校の生徒集団に溶け込むことに精神的な圧迫感があるように感じられる。
部活をつづけることができず、
学校を休むことがしばしばあった。
この春、授業中保健室に行ったことがあった。
どうしたの、と聞くと、心の調子の不良をぽつりと言った。
「わかる、わかる」
と僕は応えた。
彼が書いた感想、
彼の願いがしみでている。
――「世界で有名な選手で、後世に名を残す人は、何かしらとても大きなハンディをかかえて、
それを乗り越えて強く、そしてたくましくなってきた人だと思う。
肉体的にも精神的にも、過酷な状況のなかで、屈強な身体ができて、
つらい生活のなかで、
どんなにつらいことでもくじけない精神力などの礎が出来るのだと思う。
そういう選手は、同じような立場の人の希望の光となり、
あこがれ、目標となり、
社会に影響する。
そしてそんな人は、感謝の心を必ず持っている。
いろいろな人の支えがあって、強くなれたし、
自分の好きなこと、やらせてもらっているという心をいつも感じている。
当たり前のようだけど、
それはとても大変なことで、
やってもらっていることを感謝する、
忘れてはいけないことだと思う。
代表として世界という大舞台に立つ。
これはすごいことだ。
でもそれより僕は、
自分がサッカーをするために支えられているということを、忘れてはいけないと思う。
視野を変えて、
自分たちが朝起きた時に、朝食があったら、
学校へ行けるのも、
スポーツが出来るのも、
周りからの支えがあることを、決して忘れてはいけない、
感謝の心を感じさせる文章だと思います。」――