庭にキノコが生えてきた 


 三日月のすぐ上に宵の明星(金星)。どこかで見た国旗のデザインみたいだ。夜の帳(とばり)が下りたころ、常念岳と金星と月。かすかな手のブレが月も星もぼやかしてしまいました。


 小さなデジタルカメラです。金星と月は夜空に輝いています。これもかすかな手ぶれの失敗作です。



我が家の庭と畑に、キノコが生えてきた。
一見マッタケ風の元気なキノコだ。
太いのになると、移植ゴテの柄ほどもある。
あちこち探して観察してみると、十本以上は生えている。
これから大きくなりそうな、傘を持ち上げてきているのもある。


ここ数日毎日のように、遅霜(晩霜)の恐れがあるという放送があったので、あちこちの畑でも対策が取られた。
田の水を増やし苗を水に沈めたり、芽が出たばかりのジャガイモの新芽の上から土をかけたりという方法のあるのも知った。
ぼくも、ピーマン、ししとう、きゅうり、なす、トマト、ブロッコリーなどの苗をこの連休に植えたばかり。
肥料袋などの大きなビニールの空き袋を苗にかぶせて、数本の支柱で円筒形にし、その上からもうひとつの空き袋をかぶせて完全防備だ。
そのときに、あれキノコが生えてる、と発見した次第。


実はこれエリンギ。
昨秋ここ十年ほど無農薬有機の農業を実践している城さんがやってきて話してくれた「炭素循環農法」が動機付けになり、
キノコの菌床栽培の加工場から出る廃棄物を加工場からいただいて、庭の畑に入れたのが原因。
この栽培法のキノコは、トウモロコシ粉を原料にした菌床で栽培する。
シイタケも、入手困難なクヌギなどを使わずに、菌床を作ってそこに菌を入れて育てるやり方が行なわれている。
こうして出てくる菌床の使用済みが産業廃棄物になっていた。
近所の畑でもちょくちょくこの廃棄物の菌床を取り寄せて畑に入れているのを見かける。
近所に、5軒の人たちが家庭菜園をしている畑があり、そのうちの二人が畑に入れていた。
聞けば土壌改良になるという話だった。
城さんは、雑誌『現代農業』にも実践体験を書いている。
城さんから聴いた話と記事によると、これは単なる土壌改良に終わらない、栽培法の根本的な改革を示唆していた。


やってきた城さんは、
「生物の身体は主に何でできていますかね?」
と笑みを浮かべて言った。
「そりゃあ、炭素じゃないですか。」
「じゃあ、畑に入れている肥料は?」
チッソ、燐酸、カリ。」
「炭素はどうします?}
「うーん。」
城さん流の仮説実験授業の始まり。


作物は、光合成によって二酸化炭素から有機化合物を合成する。
だがこの農法は、空気中の炭素だけでなく、菌床、木のチップ、草など炭素資材をたっぷり土に与えるやりかた。
これらが土の中で発酵菌によって分解していくから、作物は画期的に育つ。
要するに、これまでの栽培法では腐敗菌を増やしていたから、病気や虫の餌食になることが多かった。
堆肥も腐敗菌のもとになりやすい。
発酵菌が活発になる土こそが、元気な野菜を育てるのだ。


こういう情報をいただき、
「その気になる」という機の熟しが心に起こって、
四月中ごろ、キノコの会社に電話をかけたら、廃棄菌床をいただけることになったのだった。
四月末、菌床を積んで4トンのダンプカーがやってきた。
気のいい運転手のおじさんは、何回も道を聴きながら運んできてくれた。
どかどかどか、裏の出入り口を閉ざしてしまうぐらいに下ろされた菌床の山。
まだしっかりとしたエリンギも混じっている。
それを夫婦二人で、一輪車を使って畑一面に入れ、ガーデンの方にも入れた。


さらに隣町の林業会社に電話を入れ、
近所の材木置き場に山と積まれた木のチップをいただけることになった。
乗用車で3往復、肥料の空き袋に延べ50以上もらってきた。


菌床とチップに覆われた畑、
毎年草が旺盛に茂る畦間も畦の上も、今はほとんど草がない。
白菜、キャベツ、イチゴも、元気に育っている。


そうして五月連休に、いろんな野菜苗を植えた。
菌床を入れて半月たったら、ありゃまあ、キノコが出てきた。
今晩はエリンギ料理だで。
バター醤油で、御飯に載せて、
歯ごたえもあるのう。
うまいのう。
当分、キノコ料理が食べられます。