現代から古代へ  人間は、いかに生きてきたか【1】


わさび田


人とのつながりは、不思議な展開を人生に生み出すものだ。
10年間、同志とともに自然と農体験をベースに子ども村と学校づくりを進めてきて、
その後そこを出て、単独で大和の山間部で学校づくりを始め、
縁あって舞台が移り、中国の大学、そして中国と日本の研修所での日本語教師
今年新たな展開、高校の講師として教えることになった。
担当は古典。教科書はあるが、この時代、この社会、
古文や漢文を解釈し、解説して終わりのような授業はしたくない。
生徒の実態、現代の社会と人の生き方につながる教材を準備したい。
「人間 いかに生きるべきか」、このテーマにどれだけ授業で迫れるか。
まず、短歌という奈良時代から連綿と続いてきた魂の叫びを、現代からさかのぼって、取り上げてみようと思う。



 教材1

  【詠い継がれてきた短歌】から人間の心を探る<1>


■『学生百人一首』(東洋大学主催)から



親友と 遊び疲れた帰り道 夢の話は 少し嘘つく
               茨城県牛久高校三年 中川知明


人込みの ホームで感じる むなしさを 父は何回 味わっただろう
              千葉県市川東高校三年 佐藤樹里


友が降り 電車に一人 残されて ため息深く 演技終了
              千葉柏高校一年 小崎遥佳


寝坊して ご飯はいいと 言ったのに かばんにひとつ 鮭のおにぎり
              西武台千葉高校二年 金子聡美


ミャンマーで 銃弾に倒れた 写真家一人 あなたの勇姿で 我が夢決まる
               木更津工専一年 中島武


人らしく 生きることさえ 許されず 格差の海を 『蟹工船』ゆく
              香川県丸亀高校二年 佐藤亮


簡単に 使わないでよ 誰だって 期待するでしょ ハートの絵文字
              鹿児島玉龍高校一年 川本真衣



公田耕一
(「朝日歌壇」にホームレス歌人として投稿されている歌から)

 
鍵持たぬ 生活に慣れ 年を越す 今さら何を 脱ぎ棄てたのか


パンのみで 生きるにあらず 配給の パンのみみにて 一日生きる


日産を リストラになり 流れ来たる ブラジル人と 隣りて眠る


温かき 缶コーヒーを 抱き寝て 覚めれば冷えし コーヒー啜る



■郷隼人
(殺人事件でアメリカの刑務所に終身刑で服役中、「朝日歌壇」の投稿歌から)

 
ドア閉ずる。 春は曙 囚人の 調理師(クック)ら房を 出でゆく気配


あの山の 向こうに太平洋が在る 夕陽のかなたに 日本が在る


夕暮れに 秋刀魚の旨そうな 風が吹く 今夜の獄食(ディナー)は ホットドッグ二本


一瞬に 人を殺めし 罪の手と うた詠むペンを 持つ手は同じ