児童館の正月遊び

michimasa19372010-01-08




双六つくろうよ、こんなの、
と見本を見せて、
一人一枚大きな模造紙を渡したら、
三人は乗りに乗って下書きもしないで書き出した。
頭にイメージして、紙面に書いていくそのスピードたるや、あっけにとられる。
小学5年生のユウヤの双六が完成すると、
4年生のサトルが細い角材を切断してつくった手作り積み木の一個にマジックインクで点を入れてサイコロを作った。
やろうやろう、
ユウヤ、サトルに、4年生のマコト、3人が遊びだした。
途中で、とっとことっとこ、走り出したりするから、どうしたんだと思ったら、
サイコロを振って、双六の中のある桝目に来ると、「児童館の中を3周走る」とか、いろいろペナルティが書いてある。


家に帰ってから、県庁所在地や主要都市の名前を日本地図で調べてきたサトルは、2日目に猛烈な勢いで筆を走らせ始めた。
札幌が振り出しの、JR鉄道双六だ。
へいへいへい、すごいもんだ。
「札幌、みそラーメンを食べる」
そこからスタート。
ゴールは、沖縄の那覇
駅は全部で110箇所。
彼はこういう地理的知識が豊富なようだ。


旭川、朝日を見ようと山へ登るときに、山から落ちて5回休み。」
「青森、新幹線に乗る。6が出たら、東京へ進む。」
「秋田、なまはげを見て、こわくなり、旭川にもどる。」
「天童、人間将棋で『歩』の役になり、すぐにとられた。秋田にもどる。」
「喜多方、とんこつラーメンを食べて元気になった。18マス進む。」
「水戸、納豆を食べて吐いた。天童にもどる。」
「宇都宮、ギョウザを食べる。」
「横浜、肉まんを食べて元気になる。3マス進む。」
「静岡、おでんを食べ過ぎて腹がいたくなった。木更津へもどる。」
「福井、えびを食べ過ぎた。41へもどる。」
「名古屋、まちがって飛行機にのった。57へもどる。」
今治、ミカンの食べすぎ。」
「別府、温泉に入る。」
「鹿児島、黒豚ホルモンを食べ過ぎて、豚になぐられた。95にもどる。」


こんな調子。よう食べるねえ。
早速双六遊びの始まり、始まり。
先生も入って、ということで、S先生と一緒に加わって、サイコロを振って勝負。
サトルの采配で進むゲームのスピード感には降参した。
110の駅に自分が書いたコメントは全部サトルの頭にあり、こちらが数えたり読んだりする間もないぐらい、
駅に置いた人のこまを代わって移動させる。
子どもの頭の回転、ひらめきは驚異的だ。
前進したと思ったら後退、
やってもやっても、九州に入りゴール間近にたどりついたら、あっという間もなく、旭川に舞い戻る。
2時間、遊び続けて、誰もゴールしなかった。
挫折に強い子どもになるぞ。


双六の歴史を調べた。驚くなかれ、
紀元前3世紀に二人で勝負する盤双六というのがエジプトに起こり、それが東に伝わり、
インドから中国に、
そして日本に入ったのが奈良時代以前の7世紀末ごろ、
発祥は、紀元前3世紀だよ。
そんな遠い長い歴史があったとは。
双六は、砂漠を渡り、高山を越し、海を渡ってきたのだなあ。
車も鉄道も飛行機もない時代だよ。
盤双六は江戸時代まで遊びとして続いた。
今の絵双六は、江戸時代前に始まり、
東海道五十三次の絵を描いた道中双六は大流行している。
明治時代になって双六は、正月になくてはならない子どもの遊びとなった。


児童館での遊び、第二弾は、百人一首
子どもたちは百人一首をやったことがない。
サトルが少し知っていたけれど。
まず最初は、説明。黒板に一首書く。
「春過ぎて 夏来るらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山」
「はるすぎて」、言いながらぼくは指を折る。
5音あるねえ、次は7音、‥‥
全部で57577だねえ、
これはねえ、短歌、和歌とも言うんだよ。
この575は「上の句」と言うんだ、77は「下の句」と言うんだよ。


源平をやろう。
下の句の取り札を分けて、両チームに渡し並べさせる。
読むのはぼく、
2回読んで、下の句を繰り返す、なかなか札が見つけられない。
古典仮名遣いはその都度、
「ちょう」というのは「てふ」と書いてあるよ、
と教える。
そのうちに、下の句の部分が5年生のユウヤと4年生のサトルの耳にとらえられるようになってきた。
ハルカとマコトは、まだ机に並べた取り札の文字を追えない。


二回目の勝負、
ハルカ、マコトも耳と目が動き出した。
ユウヤ、サトルは下の句を聞いて、すぐに取れるのも出てきた。
難しかったけど、おもしろい、
その味が少し分かってきたのではないか、
と子どもたちの様子から感じる。


もうひとつの遊び、百人一首の読み札の絵札を使った「坊主めくり」、
これは子どもたちは大好きになった。
マコト、最後の一枚をぴらりとめくったら、「坊主」。
どっさり札を蓄えて喜んでいたマコトは全部おじゃん、
その表情のおもしろさ。
がっかりして、大爆笑。


電子ゲームが隆盛の現代、
ひとりぽっちで、部屋に閉じこもり、
指を動かしている子どもらの姿を連想すると寒くなる。
百人一首,カルタとり、双六、トランプ、
凧揚げ、コマ回し、羽根突き、
子どもたちが群れをなし、伝統的な正月遊びに興じた光景は、ほとんど消滅した。
せめては子どもらの遊び場、児童館で、
心と知恵と身体をぶっつけあう遊びを、取りもどしたい。