世界の先端をゆく科学者たちが、
インドのダラムサラにあるダライ・ラマの私邸に集まり、
人間の破壊的感情をテーマに、5日間、あらゆる角度から白熱した議論を行った記録、
「なぜ人間は破壊的感情を持つのか」(アーティストハウス出版)
のなかに、
身体の免疫力とストレスについて、興味深い話が載っている。
いつも激しいストレスにさらされている某企業の従業員のなかに、二つの実験グループをつくり、
一定期間後二つのグループ全員にインフルエンザのワクチンを接種した。
グループの違いは、一つのグループには一定期間、一日45分の瞑想修行が課せられ、
もう一つの方はそれがなかった。
実験の結果はこういうことだった。
瞑想グループの方は、脳の前頭前野が左側に傾き、動きが著しく増加した。
そして不安の度合いが下がり、否定的感情が減り、肯定的感情が増えた。
ところが、瞑想をしなかったグループは、正反対だった。
驚くのは、免疫力。
瞑想グループはインフルエンザのワクチンに対して、強い免疫反応を示した。
すなわち免疫性が高まっていた。
ストレスとの関連について、
次のようなエピソードが紹介されている。
湾岸戦争でアメリカ軍がペルシャ湾に赴く際、
兵士たちにA型肝炎のワクチンが接種された。
ところが従軍した兵士たちのワクチンは作用しなかった。
戦場のストレスで、免疫システムが妨げられたためである。
ストレスが、免疫に影響を与えるという事例であった。
瞑想グループの結果は、
脳活動の前頭前野が左側に傾いた人は、
免疫反応も活発になり、
人の気質が肯定的になればなるほど、
インフルエンザ・ワクチンに対する免疫システムの能力が大きくなる、
というわけだ。
科学者たちの議論に、
ダライ・ラマは、大きな関心を寄せた。
「怒りやストレスなどの感情は、人間の生活にとって有害である。
心の平静や、思いやりのある態度は、
怒りやストレスに対抗できる肯定的な力をもたらす。」
という自説に科学的な裏付けを与えることができると考えたからだった。
「なぜ人間は破壊的感情を持つのか」(アーティストハウス出版)
この著作の記録は、
現代の大きなテーマに、多くの示唆に与えている。