信越放送テレビのドキュメント「清沢 洌」




たまたま新聞の放送番組を見てみたら、
午後8時から清沢 洌(きよさわきよし)のドキュメントが眼に飛び込んできた。
えー、どこの放送局だ?
ほう、信越放送テレビか。
時間はすでに8時半近くになっていて、しまったと思いながらかけてみた。
半分しか見ることができなかったが、戦時中ひそかに辛らつな戦争批判を書き、官憲に追われていた清沢の人間像、思想を、知人、友人、娘も登場して語っている。
ゴールデンタイムに、このような重いテーマをとりあげ、実に真面目に追究していることに驚いた。
ふだんめったに観ることもない信越放送テレビだ。
多くのテレビ局が、現実遊離のギャハハ番組をやっているなかで、このような番組を放送している局があった。
ジャーナリズムの良心を見た思いだ。
清沢の「暗黒日記」もしっかり紹介していた。

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「昭和十八年二月二十二日(月)
 大東亜戦争浪花節文化の仇討ち思想だ。
新聞は米を迷利犬(めりけん)といい、
英を暗愚魯(あんぐろ)といい、
また宋美齢のワシントン訪問に、あらゆる罵詈的報道をしている。
かくすることが、戦争完遂のために必要だと考えているのだ。


三月十六日(火)
 各方面で英米を憤ることを教えている。
秋田県の横手町では、
チャーチルルーズベルトのわら人形をつくり、
女子どもに竹槍で突かせていると、今朝の毎日新聞は報じている。
封建時代の敵討ち思想だ。
そうした思想しかない人が、国民を指導しているのである。


四月二十四日(土)
 昨年四月十八日の帝都空襲の米人を処刑に処したので、
米国が日本を野獣のようにいっている旨、
今朝の新聞は報ず。
そして抗議がきたそうである。
米国その他の世論が、いかに悪化しているかは、想像に足る。
この前の第一次大戦のドイツに対するように、
この世論が結局戦争遂行どんなに大切なものであるかは、
今の指導者には絶対わからぬ。
力主義のみだからである。
 日本にては開戦の文書も発表されず、
これら俘虜の問題などについても、いっさい国民に知らさない。
そして、新聞は米国の秘密主義を攻撃している。
日本の民衆の知識はこの程度のものだろうか。
そうだとすればダメだ。
 きたるべき新しい時代には、
言論自由の確保ということが――個人の名誉に対する不当な毀損に対しては厳罰を条件として――
政治の基調とならなくてはならぬ。」

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戦時中、命をかけて、このような日記を書き綴り、後世のために残そうとした人物がいた。
「罵詈的報道」という点では、今の週刊誌は「売らんかな」のために、現代の罵詈雑言をあふれさせている。