天然酵母パンが本格的な味になってきた


 カレー入りパン
 パン・ド・カンパーニュ 
 くるみとレーズン入りのライ麦パン
 ブラックベリージャム入りのパン


この味とこの形、
一口前歯でかみちぎって食べたとき、
記憶がよみがえった。
この歯ごたえとパンの中のポテト、
どこかで、食べたぞ。
どこだろう。
ああ、そうだ、20年ほど前まで住んでいた信貴山麓の最寄の駅前に、
手作りパンの店があり、
歯ごたえのある生地にジャガイモあんを入れていた。
素朴な、かみしめるほどに味がしみ出てくるパンだった。
「これはあそこの‥‥」
と突然よみがえった記憶を引き寄せながら朝食のテーブルで言ったら、
洋子は、
「それそれ、その店のパンを思い出して作ってみたのよ。」
と言った。


洋子の天然酵母パンのできばえは、作るに従って上達し、
ぼくは、ときどき味がよみがえらせる記憶の断片を話し出すことがあった。
「ヨーロッパの村のパン屋で買ったパンに近づいてきたよ。」
村の中を、ロバが荷車をひいていた。
20代のときの山仲間との旅は、
一本の長細いバケットだけが昼食だった。
イタリアとオーストリアの国境の村だった。
あの素晴らしい味にならないかなあ、
そう思っていたらそれに近づいてきたではないか。


きょうのパンは、カレーパンに、
我が家でできたブラックベリージャム入りのパン、
そしてレーズンとくるみのライ麦パン、
酵母は、小麦酵母とレーズン酵母
発酵力は強く、ビンの中でぶくりぶくりと、あわを立てている。
たくさんの量をつくるほうが発酵が安定するから、
以前は4日に1回焼いていたのを、今では週に1回にして量を増やし、
元ダネを起こしてから焼くところまで、3日をかけている。
小麦粉は、北海道産の「春よ恋」。
ライ麦粉も国産。
小麦粉の質も味に出てくる。


「見栄えも、味も、歯ごたえも、プロ並みになってきたなあ。
パン屋を開くかあ。」
ぼくの冗談には少し真実味がある。