このごろ、食べ物のなかでも水分の少ないものを食べると、
一口の塊が少し大きめだと、呑み込むときにのどにつまるようになることがある。
パン、ふかしいもなどは、のどを通過しにくくなっている。
だれでも高齢化すれば、体の機能がそうなるらしいから、
一口を少なめにしているのだが、
それにしては、少し気になる。
軽いせきばらいがよく出るし、
のどの奥が狭くなっているような感覚があり、
喉頭がんは大丈夫かなと思うようになった。
思いきって耳鼻咽喉科に行って診てもらおうと、
インタネットで医院をさがした。
地元に、2軒の医院があり、大きいのは赤十字病院。
どこがいいかなと、ひと思案。
開業医の医院の場合、たぶん医師は経験をつんだ年配の人だろうから、
その方がいいかなと思い、
ネットの医院紹介のサイトでしらべてみたら、写真も出ていた。
一人は、60代のようで、もう一人は50代の感じでほほえんでいる。
60代の医師のほうが、経験豊かかもしれないな、と思ったり、
いやこの50代の人のほうが、自信があるような感じだぞと思ったり、
ほかに情報がないから、迷うばかり、
まあどちらでもいいや、この50代の医師に診てもらおうと、
出かけた。
新しい医院の建物、受付を済ませ、待合室で周囲を眺めると、
大きな柱時計がかかっていて、そこに大学の医学部から開業を祝って贈られたことが記されている。
そこで、その医師は元大学の助教授だったことが分かった。
待っている患者は十数人、そのうち次々やってくる人で20人ぐらいになった。
ぼくは待つ時間は持って行った本を読むから、1、2時間はへっちゃらだ。
本を読んでいる間、ときどき周囲を観察する。
午前中の患者が30人ぐらいだとすると、
9時開始で午後12時まで診察して、
3時間で30人、
1時間にすると10人、
となると、ひとり6分の診察という計算になる。
あるひとりに要した時間が20分であった場合。
他の人の時間はもっと短くなる。
これじゃあ、充分な診察も無理ではなかろうか、
と考えていたら、名前を呼ばれた。
医師の前に座る。
「どうしましたか?」
医師が質問する。
ぼくは症状を説明する。
医師はなにやらカルテに書いている。
「じゃあ、診てみましょう。」
するすると、鼻から、ひもの先に豆電球のついたカメラが挿入された。
これは痛いぞと体が緊張して構えたが、
違和感はなく、前に置かれたモニターにのどの奥が映し出された。
きれいなピンクののどの奥、食道のまんなかに気管がある。
「がんはありませんね。気管のそばにあるこのまるい白いもの、これかな。」
「のうしゅ」ができている、ということだった。
「これを手術で取り除きますかな。しだいに大きくなる可能性もあります。」
手術は、全身麻酔で、ちょっと大変だと医師は言う。
「別の大きな病院か大学付属病院でしてもらうから、紹介状を書きます、」
結果はこういうことだった。
時間にして20分ぐらいだったかな。
やはりやりなれた仕事をてきぱきこなすという感じだった。
一応の対話はして、必要最小限の情報はやりとりした。
だがそれ以外の、共に考えるという会話は省かれた感じだった。
症状を抑える薬が一週間分出された。
終わってから、何か足りないものを感じる診察だった。
経験して、ひとつの結果を得た。
やっぱりもう一人の医師のほうがよかったのかな、とちらっと思ったりもする。
家に帰ってから考える。さてこれから、どうするかな?