風





建築中の建物の、棟を越して大きなものがひるがえっている。
あれ? ルーフィングじゃないの?
やられたー、風が出てきたな。
急に風が出てきた。
突風は前日に張ったばかりのルーフィングをはがして、屋根の上でひるがえらせているのだった。
ルーフィングは、屋根材の下に敷き、防水の役割をする。
幅1メートル、長さ21メートルで1本巻きの製品になっているルーフィングは、23キロもの重さのしろものだ。
張ったルーフィングのうち、棟の2条が風を受けて風をはらみ、工具のホッチキスで止めたのをつぎつぎはがして、ひるがえっていたのだ。
こりゃ、いかん。
急いで作業着に着替え、腰袋に金づちを入れて風の中へ出て行った。
はしごを慎重に上り、屋根の上に立つ。
吹いてくる、ぶんぶん吹いてくる。
南からの強風。
天候の変わり目に、この南風の吹くのが多い。
はがされたルーフィングは、長い吹流しのようになって、棟の上から北側の屋根上にひるがえっている。
固定していたホッチキスの針は屋根に残り、ルーフィングに針で止めていたところには小穴があいている。
この風の中で、ルーフィングを再固定するには、釘で打っていくやり方ではだめだ。
板をもってきて、それで2メートル、3メートルを一挙に止めるしかない。
屋根を下りて、板を数枚持ってまた屋根に上る。
はがれてなびくルーフィングは、ねじれ、ばたつき、風をはらみ、
それを引き戻そうとするが、圧倒的な風の力、一部を屋根に戻しても、他の部分がまた風に持っていかれる。
どうにもこうにも、風のほうが圧勝している。
そのうちにルーフィングが破れはじめた。
どうしようもない。
大ちゃんに連絡しよう。
電話をする。
留守。
しかたがない。シンちゃんに連絡しよう。
シンちゃんはいた。
が、今すぐには動けないという。
また屋根にもどって、棟より下に張った3条がはがれないように、板の桟を縦に数本打ち付けていった。
棟の2条は、飛ぶなら飛べ、まだ飛んでいない部分を守ろう。
屋根で風とたたかっていると、シンちゃんから連絡を受けた大ちゃんが、車で飛んできてくれた。
なびいているルーフィングを力いっぱい引き寄せる。
引き寄せて大工工具のホッチキスで打ち付ける。
だが、また風をはらんで、吹きちぎられて畑の上を飛んでいった。
こうなったら、はがれてしまったものを元へ戻すのは困難だ。
新しいルーフィングの巻いてあるものをもってきて、少しずつ転がしながら張りなおすほうがいい。
雨が降るまでに張らなければ。
二人して悪戦苦闘、やっと張り終え、屋根は落ち着いた。
風の力は、はんぱではない。


そして今日、相変わらず風がぶんぶん吹く。
昨日は南風、
今日は北風、
畑を耕すが、この風で鶏糞堆肥を撒くことはできない。
風で肥料が飛んでいってしまう。
いいかげんにしてくれよ、
言いたくなる。
ツバメさんも、こんな天気の日は姿を見せない。

夕方、やっと風が止んだ。
ツバメさんが玄関の軒の内側にある巣にいた。
しっぽが見えている。
巣には風が届かない。
静かな宵。
心落ち着く。