バラのアーチ



8年前の、田植え前のバラのアーチ

 古代に、葛城の道が通っていた大和の村を去る時、ご近所の松田さんが餞別に白バラの苗木を下さった。背戸の畑の奥に住む植木屋さんは、モッコウバラの苗木を下さった。二本のバラを、引っ越してきた安曇野の中古の家の入口に植えた。植えた位置が家の北側だから、日当たりはあまりよくない。それでも苗木は見る見る大きく育った。野を散歩していたら大工さんの作業所に廃材の角材が放置されていた。「それください」、と言ってもらって帰り、バラの蔓を這わせてアーチをつくることにした。角材を二メートルほどの間隔を開けて立て、その上に短い角材を二本、屋根型にして取り付けた。柱の根元は石を積んでセメントを練り、基礎を固めた。白バラとモッコウバラは競うように蔓を伸ばし、大きなバラのアーチができた。アーチの下には、野のあちこちから車に積んで持ち帰ってきた大きな石を敷いて道を造った。自然石の敷き石は、奈良の新薬師寺から柳生の里へ越えていく柳生街道の敷き石の趣を思い出させ、風雅の道だと満足しているが、家内はもうこれ以上敷石道を伸ばさないでほしいと言う。石の凸凹につまづいたりするというわけだ。
 二本のバラは、アーチ以外へも蔓を伸ばし、混み合う枝がからみあい、その茂みが雀たちの格好の宿りになった。雀たちは夕方になるとその中へ入って、寝るまでのひととき、盛んなおしゃべりに花が咲かせる。蔓はいったいどこまで行くんか、屋根まで上って、瓦の間に蔓をもぐりこませるのもあった。そこでまた一仕事だ。蔓を切り取る作業が増えた。安曇野は時々強い風が吹く。14年前引っ越してきた時は、ごうごうと吹き荒れる春の嵐に、とんでもない所に来たものだと思ったものだ。外に置いたバケツもがらがら音たてて飛んでいく。この風圧を受けて、バラのアーチの門が傾いてきた。バラのアーチの茂みにかかる風圧がこんなに強いものとは驚きだ。
 年末の冷え込みが強くなった。今朝は気温がマイナス6度、小雪も舞う。日の出の前、道祖神桜までランちゃんと歩く。新しくできた道の舗装の上に、田んぼの泥んこを走ってきたキツネの足跡がいっぱいついている。
 ホームセンターへ行って、太い緑の針金を買ってきて、ボルトをアーチの柱に取り付け、針金を引っ張り、傾いたアーチの修復と補強をしている。これでアーチも倒れない。今日の夕方、孫たちが帰ってくる。雀よりもにぎやかになる。