若き就農者よ、団結せよ



今日は棟上げの予定日だったけれど、あいにくの雨で、木曜日に延期したんだ。
望君、せっかく手伝いに来てくれたのにね。
まあ、こういう調子ですよ、望君。
やっとこさ、ここまでこぎつけたよ。
棟上げのとき、あの黒い梁を持ち上げて組んでいくんだけど、
あれは超重い。
木曜日、頼みますよ。
建物の完成は夏ぐらいかなあ。
これが完成したらねえ、
柿渋染めの工房としてだけでなく、ぼくは教育に資する活動をしたいと思っている。
「創造の森学舎」に実態をつくりたいね。


このごろ、ずっと考えてることなんだけどさ、
マサトも農業やりたいと、家をさがしているね。
まだ見つからない。
空き家はあちこちにあるんだけれど、
行政が全市の空き家を掘り起こして、
借家として登録してもらい、就農希望をもっている家のない人に貸し出すような取り組みができないのかねえ。
市職員に全く気配もないな。
市の農政課はお役所仕事だねえ。
広辞苑を引けば、ちゃーんと「お役所仕事」が出ているよ。
形式主義で非能率的な官庁の仕事ぶりを皮肉っていう語」
と書いていある。
この記述を打ち壊そうと魂を入れて仕事する人が多くなればいいんだがなあ。
相変わらず魂がこもらない、現実の市民の実態を知ろうとしない、
りっぱな建物の中で、形だけはやっています、というわけさね。
農業の後継者を育てるなんてことは本気に考えていないね。
タカオ君が納屋に住んでいたときに、ぼくは現場を見にきてくれと話したけれど、彼ら見に行こうとは全くせず、
逆に役所へ来てくれと言うありさまだった。
役所から出ようとはしない。
行政マンはそういう体質よ。


望君よ、
パネルディスカッションをやってみないか。
望君、タカオ君、アキオ君ら若い農民、就農希望者、学者、行政マン、農事組合法人経営者などがパネラーになってもらい、
「農業への希望と未来にむけて」を語り合う、
そういうフォーラムができんかな。
安曇野だけで、若い農業者はどれぐらいいるかなあ。
あちこちにいると思うよ。
そういう人たちが集まって、力を寄せ合うんだ。
知恵を集めるんだ。
この前、テレビで見たんだけど、
派遣労働失業者が農事組合法人に就職して農業を始めたものの、
長続きしないで次々やめていくんだね。
数日働いただけで、「きつすぎる」「時間が長すぎる」「給料が安すぎる」
という理由でやめていく。
ビジョンを持たない人が就農しても、だめだね。
農業とはどういうものか分からないままに、いきなり農場で仕事して、いやけが差す。
土に触れ、命を育む生活をしたこともない人が、土や水や風や太陽ににさらされた途端に、
拒否感が湧いてくる。
初めにきちんと指導していく必要があると思うよ。
農業と工場労働とは、時間の流れ方も違うし、仕事の質が根本的に違うからね。
給料は低くても、それ以上の喜びがあることに気づかなかったらやれないよ。


望君たちの仲間で、生産物の共同ブランドをつくれないかな。
アキオ君の「おぐらやま農場」のリンゴや桃、タカオ君のアイガモ農法米やエゴマ油、トマトジュース、
望君の特産物は何かな、ブルーベリー?
それぞれの農場が自立しながら、共同ブランドをもつ。
今度稲の苗作りは共同でやっているんだね。
ここにマサト君の牛乳が入るといいんだが、
ま、それは難しい、雇われの身だから。
マサト君が農業を始めれば、また何かいいものを作り出すだろうがね。
それぞれ自分の生産物を自分で販売しているけれど、
自社ブランドを立ち上げて成功している人はともかく。
生産物の数量も少なく、販路の無い人は、たいへんだよ。
何かいい方法はないかね。
みんな、既にいいものをつくっているんだから、
それをつないで、連帯のブランドをつくって、
販売ルートを開拓していくといいと思うんだがね。
たとえば「安曇野の土魂(つちだま)」とか、
信濃のフクロウ」とか、ネーミングを考えて。
なんでフクロウ?
ギリシャ神話の女神、ミネルヴァが連れているフクロウですよ。
「ミネルヴァのふくろう」は、知恵の象徴です。