リンゴ農家のOさんの庭で、もちつきをするということで仲間に入れてもらった。
Oさんの旧宅には、安曇野に就農してきた若い夫婦、Tさんたちが住む。
Tさんの住居の前で、Tさんの奥さんがかいがいしく動いている。
15,6人が集まっていた。
庭には、木の大きな臼がすえられ、コンクリートブロックを組み立てた三つのかまどに、リンゴの枯れ枝が燃えている。
せいろから湯気が上がり、初めて出会う男性が火の番をしていた。
東京から毎週末に安曇野に来て、農業をしているという夫婦は、いずれはこちらに移住して来たいと言った。
全体を進めていたのは、もちつき男、タカオ君だった。
今日は酒蔵の杜氏の仕事を休んできたという。
タカオ君は、この夏の自分の結婚式でも、ふるまいのもちをついたと聞いた。新郎がもちつき。
心のままに創造していく生き方は、あるときは頑固に見えることもあり、
またあるときは型破りに見えることもある。
安曇野に就農して田を借り、小規模ながら、アイガモ農法で米を作り、
無農薬・有機の大豆を作って味噌を加工し、
トマトやエゴマを栽培して、ジュースにエゴマ油の加工もしてきた。
とても食べていけるだけの収入はなく、冬は酒蔵へ出稼ぎに行く。
リンゴ畑の広がる山里に、住民の承認なしに突如産業廃棄物の処理場が建設され、
住民の反対運動が起こったとき、その先頭に立ったのもタカオ君だった。
タカオ君の生き方も、彼の仲間たちも、いつも誠実さで貫かれている。
タカオ君が、ついているもちの中に、エゴマをざざっと入れた。
「エゴマもち!」
と言った。
草もち、玄米もち、いろんなもちをついている。
ぼくも、昔とったきねづかで、一臼ついた。
あとは火守り。
昼食はOさんの家で、つきたてのもちをいただいた。
あずきあん、きなこ、えごま、それぞれの味わいを楽しむ。
我が家は2升のもちをついてもらい、持ち帰るために車のトランクに入れておいたら、
またもや、ランにやられた。
ランを連れてきていて、後部座席に入れてあったのだが、
もちの一個か2個、ぱくぱくと食ってしまっていた。
これまでアップルパイ、チョコレート、あめだまなどを、こちらが車を下りているすきに失敬している。
その度に、叱られてきたが、おいしそうなものは、たまらない。つい口が出てしまう。
「またやったなあ」
声を荒げると、ランは神妙に正座して目をそらしている。
「しかたがない、食べられるような状態で置いておくほうが悪いんだから。」
それもそうだが、ランよ、もうすこし賢くなってくれよ、と言いたい気持ちが相変わらず出てくる。