今晩食べる野菜を選ぶ。
ほうれんそうに、しようか。
菜花に、しようか、
チンゲンサイにしようか、
大根にしようか。
選ぶ。
買い物に行こうか、
車で行こうか。
いやいや、自転車で行こう、
それより運動だ、歩いていこう。
安くて良い、掘り出し物を選ぶ。
買おうか、
買わないで、あるもので、すまそうか。
選ぶ、暖房をつけようか、つけないでおこうか。
いやいや、一枚着こんで、暖房なしでいこう。
選ぶ。
テレビを見ようか、
どのチャンネルを見ようか。
何を見ようか。
この時代にギャハギャハ馬鹿笑いしている、そんな番組見たくもない。
この時代の奈落をえぐる、そんな番組はないか。
選ぶ。
選ぶ。
これから先、どうする。
これでいいんか。
このままでいいんか。
何をする。
どんな仕事をする。
どんな活動をする。
どんな生き方をする。
若い彼等は夢を描いて海を渡ってきた。
だが、夢を託して選んだ会社に入れなかった。
原因は彼らにはない。
責任は彼らにはない。
失望が彼等の身をさいなんだ。
おれは老いた。
だが老いた者にも夢がある。
夢を見るとき人は常に若々しい。
夢を見た。
わくわくした。
選んだ選択肢、そこに希望をつないだ。
だが、希望は通らなかった。
希望は遮断され、かなわなかった。
ふくらんでいた胸がしぼんだ。
胸がしぼむと現実がはい上がってくる。
それでも夢は死なない。
新たな夢が芽を出す。
肉体が滅ぶまで、人は夢をもちづける。
夢に年齢制限はない。
夢に老いも若きもない。
夢は新たに湧いてくる。
夢を描くのに金はかからない。
だが夢実現には金もいる。
そうしてやせていった夢。
ちっぽけになっていった夢。
現実を秤にかけた夢。
数少なくなった夢。
それらの選択肢のなかから選ぶ夢。
人生、
選んで、選んで、やってきた。
選んで歩いてやってきた。
曲がりくねった細道。
世界がわびしくなってきたねえ、
おばさん、
世の中、さびしくなってきたねえ。
みんな孤独になっているねえ。
これからどうなるのかねえ。
八百屋のおばさんと、交わす会話。
さびしい会話。