志を立てる

栃木の中学では、立春の日に、その年14歳になる中学2年生たちを、
「今日から君たちは大人ですよ」
と祝う、立志式が行われているということを知って驚いた。
栃木出身の低山歩きで有名なエッセイスト、荒川じんぺいが書いている。


栃木と言うと、
那須連峰の中腹に広がる那須高原那須野がなつかしい。
そこで1年余り過ごしたことがある。
開拓農民が入って開かれた那須野は、林と田畑がパッチワークのように広がり、
米作りと酪農が盛んだった。
冬から春にかけて、野の道を帰ってくる小学生の群れが、強風に巻き上げられる土埃で姿を隠してしまうほど強い風が吹いた。
夏は、連日のように雷雲がわき起こり、雷は田んぼにも落ちた。
那須岳に登った時は、身体も吹き飛ばされるかと思うほどの風を体験したが、
那須高原に湧くひなびた温泉につかると、身も心もほかほかになった。


じんぺいさんは、立志式で講演を頼まれた。
満14歳は、少年法の刑事責任を課せられる年齢で、自分の行動に責任を問われる。
14歳になると中学3年生になる。
この年は将来を考える年になる。
じんぺいさんは快諾し、生徒たちに話をした。


じんぺいさんは、栃木の中学校を出てから高校へは行かず、社会に出た。
じんぺいさんは、田舎の自然豊かな環境で、情操豊かに育った。
中学時代、どんな夢を描き、どんな将来を夢見たか、
高校に行かずに就職し、独学で自分の才能を伸ばしていったことを話そうと考えた。
ところが、講演する学校へ行ってから、今の子どものたちの夢がちっぽけなことを知って、
話の予定を変えた。
じんぺいさんは、生徒たちに、もっと大きな夢を描くことを訴え、それを実現する方法論を話した。
大きな夢を描き、志を持ち続けよ、
立志式を節目にして、志を胸に秘め、実現を目指せ、
そう呼びかけたのだという。


昔は、その年齢ごろに、元服という儀式があった。
立志式は、それに通じるところがある。
この儀式は、学校によってどのように行われているのか、
それは生徒たちにどのような影響を与えているのか、
そして、この行事は、栃木だけのものなのか、
もっと知りたいと思う。


今年の立春は、2月4日だ。
今、中国人の青年研修生たちに、日本の歌「早春賦」を教えている。
歌詞は文語、3か月しか日本語を習っていない彼等にとっては難しい。
文語の歌詞を彼らに説明しながら思った。
彼等は、志を立て、夢を持って日本に来た。
しかし、現実には、彼等の日本研修は、出稼ぎ目的になっており、
受け入れ企業の目的は、安価な労働力の確保になっている。
そうだとしたら、志とはなんだ。
志はどうなる。


春を待ち望む「早春賦」の歌、
春とはなんだろう、とぼくは問いかける。
家族から離れて彼等は日本に来た。
春を待つ気持ち、それに通じるもの、
家族を幸せにしたい、
自分の夢を実現したい、
そこに流れるもの、
「金」の奥に潜む願い、
みんなの幸せ、
愛。


春よ、来い、
春よ、来い。