骨董屋のおやじ

久しぶりだね、半年ぶりかね。
今日は、日曜日だから店を開けたで。
なに、それかい。ひしゃくだよ。もうそういう大きな木のひしゃく、作る人はいなくなったね。
これかい、これは、綿の実から種を取る道具だね。
全部木でできてる。
こうやって手でぐるぐる取っ手を回すんや。
昔の民具には味があるで。


もうモノも手に入らないよ。
一日、100キロ、車で走って探すけれども、出てこないね。


わしゃ、10年前から言っとったよ。
こういう時代が来るって。
だから、値のはるものは、早々と売れる値段で売ってしまわんと、あかんでと10年前に言うてたんやが、
それを聞きいれたのは京都の同業者一軒だけだね。
ほかの連中は信用せんかった。
その連中は、売れんものをもっとるだけでも大変じゃ。
今は、なんぼいいもん持っとっても、誰も買わん。
もう値の張るものは出んよ。
売れるのは一万円以内のものばかりだね。


わしが先見の明があるって?
そんなことじゃない。
分かるがね、世間を見とったら。
わしゃ、公務員もやっとったし、
企業にもいたし、
いろんな仕事をしてきたから、
世間のことがよう見えよる。
それだけのことよ。


経済危機と言うけれど、
わしに言わせりゃ、危機でなんかありゃせん。調整よ。
経済調整よ。
経済発展発展いうて、ぜいたくざんまい、消費ざんまい、それがパンクしたというこっちゃ。
金融資本主義とか、市場経済とか言うけれど、むちゃくちゃな消費ちゅうのは、
長く続くはずがないで。
調整の時代が来たということよ。
調整せえ、ということよ。
アメリカと日本だけだぜ。
こんな暮らしをしているのは。
世界中は、もっと質素な暮らしをしとる。
むちゃくちゃだったということよ。


これから先、どうなるか、わしにも分からん。
日本がこのままこういうやり方をしていたら、それこそ危機におちいってしまうね。
恐ろしいこといなるで。


ほどほどに、
質素に、
それで楽しく生きることよ。