日本沈没 3

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  小説は叙述する。

 「日本消滅の日せまる、という衝撃的なニュースが世界に流れた。

 日本列島の主なる四つの島が、マントル変動によって、急速に沈み、地上の火山噴火と大地震によって壊滅的な破壊を被るだろう。‥‥国連はこの問題について緊急の安保理事会が収集される見通しであると。」

 

 富士山大噴火、前後して越前岳愛宕山、箱根神山が噴火、火山灰降り注ぎ、溶岩が流れ、全国各地で大地震発生。さらに浅間山大噴火、武尊山、燧岳、白根山など全国的に多くの火山群が活動を始めた。

 「日本列島が一年以内に海没する。――この日本政府の公式発表が全世界に衝撃を与えた時、日本には不気味な沈黙と虚脱が襲った。首相演説があり、非常事態が宣言され、‥‥その後、国中の電話という電話が一斉になり始め、その日のうちに不通になっていった。交通機関はほとんど途絶した。」

 小説は、第五章「沈みゆく国」を詳細に描く。

 フォッサマグナが動き、全国的に火山が連動して爆発、地震津波、沈下する陸地‥‥

 日本全国民の避難をどうするか、事態は窮迫していった。

 避難するとしたらどこへ、どのような手段で?

 ここで問題になってきたのは、避難するとしたら、海を越えて行かねばならないから隣国ということになる。では隣国との関係はどうかという問題になった。中国、韓国、北朝鮮ソ連(小説執筆当時はまだロシアになっていなかった)と日本との関係はどうなっているか。日本人の避難民を大量に受け入れることができるような関係に立っているか。政府、国民の、意識、感情が、日本人は「隣国に避難したい」、隣国は「日本の避難民を受け入れたい」という、友好をベースにした精神的なつながりができているか、それはきわめて薄いのではないか、これは大きな問題だった。

 小説ではこう描く。政治家、官僚の会話。

 「日本にいちばん近い国に、思うように避難できないのは皮肉なことだ」

 「だから、そういった地域ともっと早くから、強い友好関係と相互交流をはかっておかなければならなかったんだ。‥‥」

 「日本は明治以来、このもっとも近い地域を敵に回すように自分を追い込んでいったんだからな。経済侵略か、軍事侵略か。善隣外交をまともに続けたことがあるか。自らアジアの孤児になるようにしむけてきた。自業自得だ。‥‥アジア諸国民を軽蔑する連中が、もし向こうの地域にごっそり移住したらどうなるんだ。」

 「今さら言っても始まらん。今はこの島から一億一千万人を運び出すための知恵をしぼらねばならん。」

 だが、船の出せる港湾も災害によって、わずかしか残っていない。航空もダメだめだ。

 小説は述べる。

 「人々は、日本という国の社会と政府を信じてきた。いや信じようとつとめ、信じたいと願ってきた。政府がなんとかしてくれる、決して自分たちを見捨てはしないと。」

 「人々は、ひしひしとせまる危機の雰囲気と不安の間で、何かにすがりつきたい眼差しを宙に向けていた。‥‥社会全体が灰色のこわばった表情を見せ始め、それをあおるように地震がおそい、火山灰がふりそそいだ。