安曇野の美

        屋敷を取り巻く樹林



 安曇野には、家の周りに屋根より高い木々の生えている屋敷が、あちこちに点在している。
数少ないこれらの家々が、安曇野の美しい景色を構成する要素となっている。
それは自然と人工の調和の美である。



木々は、針葉樹が多いが、はるかに屋根を越して空に伸び、屋根の高さの2倍以上もある木が多い。
建物は木々の中に隠れ、はざまから見える。
それが美しさの元になっている。
樹木と建物との調和、建物が100パーセント露出することがないから生まれる。



樹は、防風林の役割を果たすために植えられた。
北アルプスからの西風を防ぐ西側の林、
さえぎるもののない南から吹いてくる風を防ぐ南側の木々、
日本海から谷伝いに吹き上がってくる北風を防ぐ木立、
南風と西風を防ぐことに重点を置いた家、
南と西と北からの風を防ぐためにコの字に樹を植え、東を開いた家、
それぞれ違いもあるが、南と西からの風の強さを伺わせる木々である。



安曇野は、日ごろは穏やかな日が続き、乾燥している地域である。
が、ある日気圧の動きによっては激しい風が吹く。
冬は吹雪に襲われることもあるけれども、隣の大町地域以北とは積雪に大きな差がある。



太陽の日ざしをふんだんに室内に取り入れようとする現代の建築と異なり、
昔からの伝統建築は、災害を防ぐことを第一義とした。
その結果、夏は涼しいが、冬の寒さは厳しい。



新興住宅地は、木々の着物を着ない丸裸の状態で、田園地帯に立ち現れる。
だから自然や風土と調和しない。
庭に芝生を植えたり、背の低い木を植えたりする家があっても、風景の美をつくらない。
そういうところが増えている。
現代建築の家々が丸裸で立ち並ぶようになると、安曇野の景観はもう昔のものではなくなる。
不動産会社、建築会社が開発する新興住宅地には、個々の狭い敷地の関係から、背の高い樹を植えることが出来ない。
としたら、住宅地の周囲、10軒なら10軒の住宅地の周りに、並木のような緑のベルトを作ることである。



安曇野の周辺は山ばかりだから、木々は充分ではないかという論があるとしたら、そうではない。
日常の暮らしの中に、身近に眺め、手に触れるところに、高くそびえる木々があるということ、
それが人間の心にはかりしれない癒しをもたらす。
子どもの育ちにも、人々の交流にも、身近な緑地は重要な場所になる。
安曇野市は条例で、開発区域の周囲に、並木を植えることを開発業者に義務付けることができないか。