「扇町サロン」第一回・テーマ「次世代に誇れる安曇野の景観」<2>

 サロンにコーヒーとケーキを用意するということになり、それをどうするかで中村さんが何度も我が家にやってきた。扇町の公民館では湯を沸かすことはできるが、20人分のコーヒーを淹れるカップも道具もない。中村さんは、「それじゃあ店に売っているふた付の缶コーヒーにしよう」というから、「そうするか」ということで、熱湯を沸かして大鍋に湯を入れ、そこに缶を浸けて熱くすることにした。ケーキは、二人でスーパーに行って、コーヒー缶と一緒にいくつか買って帰り、試食して一つずつ選んだ。この辺の中村さんの機動性はなかなかのものだった。
 ぼくは、その日のレジュメをつくった。

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扇町サロン 第一回  テーマ「安曇野の景観」 

1、子ども時代の安曇野の思い出。どんなところで、どんな遊びをしましたか?
2、今の安曇野で、美しいと思う場所、好きな場所、その景観・景色は? 
3、安曇野の景観を壊しているものは何でしょうか?
◆ 安曇野の景観美の特徴
 ○空、山、森を背景にして、樹木群が集落・住宅の屋根より高く空に伸びています。樹木群が建造物の不調和をカバーして美しいです。
 ○建造物の集合地(住宅地)は、建物と建物とが調和し、バランスがとれ、リズムがあるところでは美しいです。しかし、日本の現代の建築は形、色彩、大きさなどが周囲との調和を考えないで建てられています。伝統的な建物と現代の建物とも不協和音を呈しています。戦後日本は、美観の要素であるハーモニー、リズム、メロディのない景観が多くなりました。
◆ 「外なる自然」が、「内なる自然」(人間の心身の自然)を育む。
  「外なる自然」は、人間を取り巻く自然。山、森、空、川、樹木、野草、生物。宇宙。
  「内なる自然」は、人間の心身です。
     「美しく豊かな外なる自然」のなかで、精神、知性、感性、健康が育まれます。
     しかし現代社会の自然破壊はさまざまな問題を引き起こしています。
     そして社会、学校、家庭は、多くの欠落・問題を抱えています。
◆ 市民の取り組みは具体的で可能な一歩から。
    「歩く文化」を興します。
    それによって、景観・環境への市民の意識が変わります。
    「歩く文化」は、景観・環境に反映します。
    「歩くための道」(パブリックフットパス)をつくります。
    休息して景色を味わう「オアシス」をつくります。
    「街路樹」を植え、「並木」をつくります。
    「旧街道」の復活。「伝統的な建造物」、「屋敷林」保存します。 
    「大木・古木、雑木林」を保存します。
    新興住宅地の家に「記念樹」や「シンボルツリー」を植えます。 
   
★<参考> ヨーロッパでは「歩く文化」を盛んにし、森、歴史的街村、歩く道を宝として、市民の健康福祉、観光や教育、地域の活性化に役だてている。イギリスはウォーキング道(パブリックフットパス)を私有地も歩けるように全土にはりめぐらし、ドイツは、広大な森、田園、街村を抜けていく「休暇街道」を150ルート以上、その中の長大な街道は七本あり、一本が四、五百キロにおよぶ。スペインの「巡礼の道」は網の目のよう、イタリアは、「街道が滅べば国は滅ぶ」と歴史的遺産として大切にしている。オーストリアはチロルの山や村を歩く道を整備し、子どもたちは二カ月に及ぶ学校の夏休みを遊びと学びにして、友だちと山や森、歴史的遺産にどっぷりつかる。他の国々もそれぞれ特色ある施策を行なっている。            以上

 そして当日がやってきた。中村さんは9時にスーパーが開店するので、予約してあるケーキを購入しに走り、BGM用に家からクラシックと演歌のCDを持ってきてくれた。
 市職員は2人、市民は女性7人、男性11人、計20人が集まった。

                    つづく