秋の風

今朝、西の空に高々と色鮮やかな虹が出ていた。
夜明け前に降りだした小雨がやみ、朝日が上がってくるころ。
常念岳はまだ雲の中にある。
安曇野は虹がよく出る。
見渡す空の広さ、虹も大きい。
ランと散歩に出たらすぐに、カイちゃんを連れたおじちゃんに会った。
カイちゃんは、ゴールデンレトリバー種、ふさふさした毛が夏の間は暑くて、
散歩のたびに道ばたの水路に飛び込んではうずくまり、大きな体を流水に冷やしていた。
「雨が降りましたね」
「ええ、4時ごろから降っていましたね。」
「そんなに早く起きられるんですか。」
カイちゃんのおじさんはこの辺りの田んぼの水見で、朝早くから田んぼを見回っている。
そのお供がカイちゃんだ。
ランとカイちゃんは友だち、ランは3歳、カイちゃんは2歳、それなのにランはおてんばで、
カイちゃんは落ち着いていて、じゃれつくランを不思議そうに見ながら、適当にあしらっている。
「来月はもう稲刈りですよ。」
カイちゃんのおじちゃんが言う。
あたり一面の稲穂はすでに頭を垂れてきている。
「今年も豊作ですね。」
「ええ、よくできていますね。」
「ちょっと教えてほしいのですが、うちのかぼちゃの上のほうが白くなってきていましてね。」
「日焼けかな。」
「そう、日焼けのところがちょっと傷んできているんですよ。どうしてですかね。」
「病気かな。どうしてだろう。
あ、ちょっと待ってて。」
おじちゃんは、カイちゃんのリードをぼくにあずけて通りがかった畑の中に入っていった。
畦にも草がぼうぼう、畑の中も草だらけ。
「メロン持っていって。」
おじちゃんは、メロン二つにカボチャを一個、もいできた。
この畑はカイちゃんのおじちゃんの畑だったのか。
おじちゃんはメロンとカボチャを畦においた。
「散歩の帰りに持って帰って。」
「いやあ、これはうれしいです。」
メロンのいい香りがする。
とたんにカイちゃんが興奮して飛び上がり始めた。
「カイはメロンが好きでね。」
うちのランもスイカやメロンは大好きだ。
ただし食べるところは、こちらが食べたあとの、皮に付いた残りの部分だけれど。


トマトジュースやトマトソースにする地這いトマトをつくっている農家が安曇野には多い。
ちょうど今が収穫期で、真っ赤なトマトを摘んでいる。
タカオ君が、畑でつくったトマトのなかから出荷できないのをもってきてくれた。
それを使って、洋子が今年もトマトソースをたくさん作った。


クルミや栗の実も太ってきた。
落下している実もある。
稲穂の上を群れをつくって飛ぶ鳥たちが目立つ。
ムクドリかな。
セグロセキレイが5、6羽、屋根の上を歩いて、しきりに尾羽を振っている。
うちのツバメの子、巣立ちから後も夕方になると帰ってきて巣で一晩過ごしては、夜明けには飛び立っていたが、
とうとう一昨日ぐらいから帰ってこなくなった。
結局25日間、夜だけ古巣のねぐらにもどってきていたというわけ。
こんなにも長く、ねぐらにするなんて、
ツバメにもいろいろ個性があり、暮らし方もあるんだねえ。
またこれからも帰ってくるかもしれない。
きっといいことがあるよ。


急速に秋の気配が漂い始め、風も涼しくなった。
工房の基礎を今つくっている。
基礎の下に入れるグリ石を近所から集めてきて、
セメント1、砂2、砂利3の割合で練ってつくったコンクリートをグリ石とあわせ、
その上に重量ブロックを置き、鉄筋を入れ、水準器で水平をとりながら、基礎にしていく。
力仕事で、腰にくる。
それでもやればやるだけ前に進む。
今日も始めるか。