大鎌で草を刈る

ヨーロッパの農民が畑の中を大鎌で刈っている絵を見たことがある。
その印象が強く記憶に残っていたから、隣の座席のロシア人に、大鎌の絵を描いて見せたら、
「コサ、コサ」と言った。
大鎌のことを「コサ」というのだな、ふーん、じゃあ、これは? 次の質問をする。
40年以上も前のこと、ハバロフスクからモスクワ行きの飛行機の中でのことだった。
立ったまま左手で鎌の柄を握り、右手で柄の途中に取り付けられた突起をつかんで、右から左へ先端部分を横に振り払うようにして刈っていく大鎌、
善良そうなロシア人のおじさんは身振りで教えてくれた。
どうして大鎌を話題にしたのかそれは覚えていない。
青年時代、大鎌はぼくのなかにあるヨーロッパの田園の詩情をかきたてるものだった。
日本にも大鎌はあるのだろうが、見たことはなかった。


日本では小鎌を使う。
昔から日本の精農は、田の畦の草を丹念に小鎌で刈った。
まだ機械化されていなかった時代、寸暇を惜しんで草を刈った。
だから土手や畦の草は短く刈られて、いがぐり頭の芝地のようになり、
小さな草のびっしり生えた土はしっかり締まっていた。
田んぼの水漏れは、このこまめな草刈りで守られていた。
今の日本の農業は、エンジンで動く草刈り機を使い、なかには除草剤をばんばん撒いている人がいる。
このごろ目立つのは、ぼうぼうと草をはやして、草の種ができていても放置し、茂りすぎてから刈っている。
刈り方は、おおざっぱもいいとこ、草刈り機を地面に着けるやり方をすると石をはねる危険があるからだろう、
地面からいくらか放して刈っているから、刈り残しが多い。
だから畦の土はぼこぼこと締りがない。
そこへもってきてモグラが穴を掘る。
しかし、田の水漏れは、田の内側にそれ用の水漏れ防止板をはっているから大丈夫というわけだ。
望君は去年、草刈り機で足の指を何本か切り落としてしまった。
以前住んでいたところでは、高齢の農民が草刈り機で足を切り、出血多量で亡くなったと聞いた。


新聞の「声」の欄に、「大鎌」という語が登場していたから注目。
なつかしい。
ひきつけられて読んだ。
こういう人もいるのだなあ。
要約するとこういうこと。


「草刈り樹を使わない私は1.4ヘクタールの畑や周辺を大鎌で草刈りします。
1.2メートルと長い柄の大鎌は草を選んで刈り取れ、
静かで省エネルギーです。
草刈り機のはねた石で失明した人がいました。
高いガソリンの値段に、大きな騒音。
ところが、大鎌は使い勝手に優れています。
メロンやトマトのハウスのきわや障害物周りの刈り残しがなく、
針金など巻き込む恐れがありません。
美しいヤマユリや益虫を育てるヨモギなどを残し、
カヤなどイネ科の雑草やつる草などを選んで刈り取ることができます。
草刈り機を使い続けると、根が浅いイネ科の雑草がはびこり、昆虫が減り、侵食されやすい土壌になることを見てきました。
大鎌だと、草刈りのいらない草が増え、多彩な生態系となって病害虫の発生も抑えられます。
ガソリン高騰の今、地球と人に優しい大鎌による草刈りをしませんか。」(福島県 59歳)


共鳴しますよ、この「声」。
我が家の隣の畑では、除草剤を撒くことが常だから、
「畦の土手の部分は、私が刈ります。」
と言って、隣接している畑の土手の部分は、我が家の土地ではないが、そこの草はぼくが小鎌で刈っている。
朝早くから、ばあーんばあーんと草刈り機の音を響かせることもない。
小鎌はしゃがんで刈るから、少ししんどい作業になるが、間近に草の姿が見え、
草の生態から虫から、いろいろ観察できる。
ヨーロッパの大鎌よりも、日本の大鎌はたぶん刃の部分が短いはずだ。
大鎌でもいいし、小鎌でもいい。
少し伸びたら散髪する、
それを心がけたら、びっしり密生した草の芝地になるだろうと、
それも楽しみ。
不思議なことに、今年は土手にポピーが増えた。
最近まできれいなピンクの花を咲かせていたから、
それを刈るのは花が咲き終わったらしようと思っている。