「真っ赤に色づいたオンコ(イチイ)の実を採ってきて、
果実酒をつくった。
2時間かかって、オンコの実を摘んだ。
手間はかかるが、これも楽しみの一つである。」
私の住む信濃の堀金では、イチイの木が郷土の木になっている。
生垣にも庭の木にも、イチイが植えられている。
なるほどイチイには赤い実がなる。
それをアイヌの人たちは果実酒にしたのだ。
イチイのアイヌ語がオンコ、森の神の恵み。
チカップ美恵子は、北海道のいろんな果実の実で果実酒をつくった。
チカップ美恵子は、「アイヌ・モシリの風」(NHK出版)を書いた。
「アイヌ・モシリ」とは「人間の大地」、「アイヌ」は人間、「モシリ」は大地。
「アイヌ・モシリは、アイヌ民族の生活空間であると同所に、聖地だった。
アイヌ民族には土地を所有するという概念はなかった。
アイヌ民族にとってのアイヌ・モシリは空気のようなものである。
大地は母である。
母なる大地を切り売りするなどは、もってのほかである。」
(「アイヌ・モシリの風」)
チカップ美恵子は、アイヌ民族の女性の手仕事、アイヌ文様刺繍を一生の仕事にしようと思う。
北海道内をくまなく歩き回って、アイヌ文様との出会いを求めた。
娘を連れて歩きまわっていたある日、博物館の民族衣装がチカップ美恵子に語りかけてきた。
心のおもむくままに針をすすめなさい。大自然の風景、四季折々の景色の中にこそ、
アイヌ文様の心象風景があるのだと。
「大地の民、アイヌ民族の女性たちの織りなすアイヌ文様刺繍には、
家族への優しいまなざし、ぬくもりなどがこめられている。
大地に連なるカムイたちのメッセージが送り込まれている。」
ぼくは自分の通ってきた教育運動の道のなかで、
底辺からの視点、被差別からの視点を学んだ。
そこからアイヌの歴史を学び、シャクシャインなどの英雄の生涯を知った。
あこがれて、北海道を旅した。
大雪山のふもとで、アイヌの彫刻家の話を聞いた。
ひげぼうぼうの彼は、情熱的にアイヌの伝統と生活を語り、
屈斜路湖に住むアイヌの長老を紹介してくれた。
湖のほとりで会った長老と奥さんは、あたたかく家に迎え入れてくれた。
先の6月、国会で「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が採択された。
「先住民族の権利に関する国際連合宣言」を踏まえ、アイヌ民族を日本列島北部周辺、とりわけ北海道に先住し、独自の言語、宗教や文化を有する先住民族であることを認める決議。
決議は述べる。
昨年9月、まありに国連において
「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が、我が国も賛成する中で採択された。
これはアイヌ民族の長年の悲願を映したものであり、
同時に、その趣旨を体して具体的な行動をとることが、
国連人権条約監視機関から我が国に求められている。
我が国が近代化する過程において、多数のアイヌの人々が、
法的には等しく国民でありながらも差別され、
貧窮を余儀なくされたという歴史的事実を、
私たちは厳粛に受け止めなければならない。」
あまりに遅い決議であったが、全ての先住民族が、名誉と尊厳を保持し、その文化と誇りを次世代に継承していくという国際的な価値観を、日本もやっと共有する。
G8洞爺湖サミットが、自然との共生を根幹とするアイヌ民族先住の地、北海道で開催される。