ツバメ、巣づくり

去年は巣を作ってヒナを育てたツバメが、今年は巣づくりしないなあと思っていた。
日本に帰ってきた早いツバメは4月には巣をつくっていたから、もう今年は我が家にツバメは来ないものと決めて、
稲田の上を飛ぶツバメを眺めていた。
ところが昨日、6月も上旬が過ぎるというのに、ツバメが巣づくりしているのを発見した。
玄関前の軒下、
床がなんだか汚れている。白と黒の斑点がいくつか付着しているから、
これはランが汚したんだろうと思っていた。
ランはそこで半日、身体が冷えれば太陽の下に出、熱くなれば軒下に入り、体温調節しながらのんびり過ごしていたから、
黒いのは、この頃よく抜けるランの冬毛が落ちているのだろうと考えていた。


夕方、古いツバメの巣を何気なく見上げたら、おわんを半分にしたような形の巣の上部が、黒く縁どられている。
あれっ、眼は微妙な変化をとらえた。
観察しようとして見たのでないのに、瞬間的に変化をとらえて「注目」の眼になる。
おもしろいね。
そして一瞬、理解した。
古巣の乾いた土の色と異なる、ツバメが塗り重ねた田んぼの新しい黒っぽい土の色。
ツバメだ、帰ってきた。


ツバメが帰ってきたよ。
ツバメが巣づくりしているよ。
急いで洋子に知らせた。
床を汚したのは、ツバメだった。


今朝、よく見ると、床の汚れの黒い斑点はランの冬毛ではなく、巣の土だった。
短いわらも混じっている。
白いのは糞だった。
二羽のツバメは、せっせと田んぼから土をくわえて帰ってきて、古い巣に積み上げている。
けれど、人と犬の姿が巣の下にあると、警戒して巣に入ろうとせず、周辺を旋回している。
昨日はランが巣の下に寝そべっていたはずだから、犬が巣づくりの邪魔者にはならないと思うのだが、
人間かもしれない、人間の頭の位置が巣からわずかしか離れていないから。
ツバメと人間の長い共生の歴史が、DNAにインプットされているだろう。
少し警戒もするけれど、そのうちに慣れて、卵を産み、ヒナを育てることだろう。


去年は、5羽か6羽ヒナが巣立っていったと聞いた。
僕は仕事で家を留守にしていたころで、
その一部始終を見ていない。
残念ながら、日程では今年もヒナの巣立ちは見られない。
でも、巣づくりは見られた。
どんぶり茶碗を半分にしたような小さな巣に、5、6羽のヒナが入ると、ぎっしり窮屈な状態になる。
今年は少し大きめにして、ゆったりする気だね。
それでもヒナがかえったら、親ツバメは巣の中に入れないね。
夜寝るところは巣の縁になるのだろうな。


これから準備することは、ダンボールを巣の下において、糞の落下に備えること。
ランが巣の下に一日寝そべることも、すこし遠慮したほうがいい。
今日は曇り空、ランは南側の縁のほうへ移って、そこでのんびり一日を過ごすことにした。
そんなに気をつかうことはいらないよ、私たちは安心しているから、
とツバメさんに言われそうだが、
それでも帰ってきてくれたツバメさんが、安心して子育てできるように、
ちょっとは気をつかいましょう。
ゆっくり海を渡って日本に帰ってきた遅い帰省のツバメのつがい。
入れ替わり立ち代り、土をくわえてきては、巣に積み上げ、巣はどんどん大きくなっている。