自治会総会


居住区には自治会がある。
ほとんどの住民は居住区の自治会に入るが、都会では自治会費を納めないで入会しない人もいる。
3月30日、今日はぼくの居住区の自治会総会。
この居住区には172戸の家があり、
今日は、今年度の活動と決算が報告され、次年度4月からの計画と予算を決定する、年に一度の全員総会。
行ってみると、出席者は住民の三分の一程度だった。


信州に移住したぼくにとっては2回目の総会体験。
公民館は暖房が効いていて、区長が報告している間、ときどき睡魔が襲ってきてしかたがなかった。
午後1時に始まり、質疑応答に移った3時ごろから意見がぼんぼん出始めると、睡魔はどこかへ飛んで行った。
終わったのは午後5時。
以前住んでいた奈良の名柄とはえらい違いだ。
どうしてこんなに自由に、疑問や批判を含めて遠慮なしに意見が出せるのだろう。
この違いはどこから出てくるのだろう。
信州人は理屈っぽく議論好きだと聞いたことがある。
信州人気質というのがあるのだろうか。


いちばん白熱したのが、区費の徴収をめぐる討議で、3人の区長に対する意見がストレートに出たことから始った。
区費(自治会費)は年間9千円。
ここの自治会は毎年区長が変わる。区長は3人体制。そのうちの一人が代表区長になる。
「区費の徴収を知らせる文書は、区長が各戸配布することになっているが、去年区長が配らないで、評議員隣組長)に配布してもらったのは、どういうことですか。」
「172軒の一戸一戸に区費納入書を配布するのはたいへんで、総会に代わる評議員会で、隣組長に配布してもらうことを決定しました。」
評議員会で決めることではできないです。総会で区長の仕事として決めていることだから。」
「しかし、総会をいちいち招集してということはできないから、総会に代わる評議員会で決定したのです。」
「各戸に配布することは区長の仕事だから、区長手当が増額されているんですよ。」
「そういうことを私たちは聞いていないです。いったいいくらなのですか。だれもそれを伝えてくれなかったですよ。」
「私が区長をやっていたときは、一戸一戸区民を訪ねていくことは、どこにどんな人が、どんな風に暮らしているか、区民ひとりひとりを知ることになるという意義があると認識していました。」
「区長が配らなかったから、手当を返せということですか。」
「過ぎたことは過ぎたことです。問題は今後に向けて、はっきりしておいたほうがいいということです。」
「住民も、昔は70戸ぐらいだったけれど、今は100戸も増えている。事情が変わってきていますよ。」
「一戸一戸回るのは大変だから、郵送してもいいではないですか。」
「以前、区民の田畑の面積や所得で区費の額を決めていて、区費の多い人も、区費の少ない人もさまざまで、今みたいに各戸一律ではなかった。それは個人情報でもありますから、区長自ら区民の家に区費徴収の連絡の文書を持っていってたという事情もあったんですよ。」
「私は去年、区長に選ばれたとき、区長をはずしてくれと言いました。自分の仕事を持っていて、その上に区長の仕事というのは大変ですよ。手当てなんか要らないから区長をはずしてくれと。こんなことなら、これから区長のなり手がなくなりますよ。」
意見がぶつかり、火花が散る。
最後は、新しい三区長に結論を委ねるとなった。
すると、新役員はこの総会メンバーの意見を参考に聞きたいという。
議長は、採決することに躊躇していたが参考までにということで決を採った。
結論は、区長が直接配らなくてもいい、徴収文書の配布方法は新しい評議員会にゆだねる、となった。
これで決まりだ。


こんな調子で、区費の値上げについても、意見が出る。
区主催の「敬老会」の廃止と社協主催の「高齢者お楽しみ会」の運営についても、
市や県からの補助が削減され打ち切られていく中で、区自前でどうしたら予算を生み出すことができるかについても、
意見が盛り上がる。
区費を値上げせざるをえないかどうか、今期をかけて考えよう、年金暮らしの人もいる、他の区ではどうしているかも調べながら、
という意見に落ち着いた。
五つの町村が合併して市となったことで、以前の村時代より状況が悪くなった、合併しなかったほうが良かったのでは、と悔いを語る人がいた。
とうとう午後5時になってしまった。
延々4時間の討論。
子ども会、祭りや運動会、公民館活動、地域の清掃、ごみ集積活動など、自分たちの暮らしと生活環境をつくっていく住民自治会。
ここには対等な立場で、遠慮なく意見をたたかわせる区民の姿があった。
しゃんしゃんと手拍子を打つ「自治会」ではない、
実力者の上意下達の「自治会」ではない、
はっきり意見を出し合って、ぶつかりあって作っていこうとする、
しかしそれだけに衝突も葛藤もあるだろう、
昔の村落共同体から移り変わり、民主的な自治を模索する住民の自治会があった。
ここにはボスが存在しない。これは大きい。
時間がかかるが、みんなが参加すればするほど時間もかかる。


外に出ると、昼間はいい天気だったのに雨が降っていた。
5時から懇親会、酒も出る。
それには参加しないで、雨に濡れて帰ってきた。