ここ数日、気温が上がり、桜の芽もふくらみ始めた。
木の発する命の気配が、開花にむけてのかすかな動きを伝えている。
2月末、桜の開花を待たずに、呉さんに王さん、李さんら信州の三人組も、
東京の3人と広島の6人も、ふるさとに帰っていった。
3年の年月を経て、故郷の家族の元に。
僕の留守中に、呉さんから帰国する旨を伝える手紙が我が家に届いていたらしい。
帰る前に会いたい、便りが伝えていた。
が、出張中の身、結局会うことはできなかった。
呉さんは待ちくたびれた恋人のふところに飛び込んでいることだろう。
3年前、日本に来た研修生たちは、日本語研修の授業の中で、森山直太朗の「さくら」を何度も歌った。
日本の桜、夢に見た桜。
研修が終わって、企業へ出発した日に、研修所近くを流れる川辺の桜は咲き始めた。
「さくら」の歌詞、
「ぼくらは、きっと待ってる 君とまた会える日々を、……」
「……さらば友よ、またこの場所で会おう、
さくら舞い散る道の上で」
だから、中国に帰る前に、もう一度ここで会おうと、
研修生たちは声掛け合ったのだったが。
森山直太朗は、「さくら」でデビューした年、
全国高等学校合唱コンクールで金賞をとった宮城県・女子高等学校の生徒たちの合唱に感動し、
学校を訪れて「さくら」の合唱バージョンをつくった。
今年その思い出の高校を再訪して、再び「さくら」の合唱を行った様子がNHKで放送された。
その映像を録画したビデオを僕は持ってきて、2月に日本にやってきた研修生に見せた。
研修生たちは、食い入るように直太朗の歌う映像を眺め、聞き入った。
研修生たちには歌詞の意味はよく分からない。
しかし、肌で感じるものがある。
心に伝わってくるものがある。
「歌いたい、教えてほしい。」
見終わった後の、反応だった。
今ときどき授業で歌っている。
僕が歌うと、みんなは調子はずれの声で歌い出す。
何度も何度も、僕は繰り返し歌い、あとについて研修生たちは歌う。
次第に歌らしくなってくる。
3月21日、
日本語研修の修了する日、
歌は歌になるだろう。
桜はまだ咲かない。