観梅であったこと


観梅に行った。
職場の同僚の車で行った。
園遊会が開かれ、車も人も多い。
パーキングは満杯で、農道に案内された。
駐車場係の誘導で農道に車を入れていくと、
既に停まっていた車があり、運転手側のドアを開けて、若い男がカメラの準備をしていた。
ドアを開けたまま、男はその横でカメラをいじっている。
狭い農道だから前へ進めない。しばらく待っていた。
後から来た車が前へ進めないということに男は気づかないのだと思って、
声をかけた。
「すみません、お願いします」
男は声が聞こえないらしい。
「すみません、ちょっと前へ行きますから」
男は、こちらを向かない。
声を大きくして、車の窓から声をかける。
「ドアを閉めてください」
距離は4メートルほど、どう考えても、声が聞こえないはずがない。
男は、完全に無視をしているようだ。
ちらとも視線を向ける気配がない。
こちらの腹が、いささかムムムとなってきた。
「ドアを閉めて!」
ほとんど命令調の声で叫んでいた。
「カメラを用意してんだよ」
見向きもしないで、ドアを開けたまま、男はカメラを三脚に付けようとしている。
声を聞きつけて、車の案内の係をしている先ほどのおじさんがやってきた。
「ドアを閉めてください」
おじさんはそう言うなり、男の車のドアに手を伸ばした。
「さわるな!」
男は、おじさんの手を突き放して、叫んだ。
その剣幕におびえたおじさんは、その場を逃げるように離れていった。
男はゆうゆうとカメラを触っている。
どうしようもなかった。
こちらも男とかかわらないで、前進するしかない。
農道の右側の草むらを踏み分けるように、同僚は車を徐行させ、
男の車の脇を抜けて前へ進んだ。
男の車はBMWだった。


なんという男だろう。
こういう人間がいるのか。
同僚の女の先生たちは怒りをぶつぶつと声に出すが、
すっかり壊された気分は元にもどらない。
暴力を振るわれなかったのが幸いだと同僚たちは言った。
この人はどういう人か、
この人にひそむ、何かがありそうだった。