湯たんぽ

michimasa19372008-02-14





夜の九時前になると、湯を沸かす。
ベッドの夜具の中から取り出した湯たんぽは、昨晩入れた湯の温もりがまだ残っている。
その湯を浴槽の湯のなかに流し込み、
台所で新たにしゅんしゅん沸いた熱い湯を湯たんぽに入れる。
このプラスチック製の湯たんぽは数年前に買ったものだが、ここに来て愛用している。
布袋に包んで敷き布団と敷き毛布の間に入れ、
就寝時が来て、掛け毛布と掛け布団で保温された湯たんぽに足を載せると、
ぽかぽか温かく睡りの精はすぐにやってくる。


今年は湯たんぽが大人気のようで、
ホームセンターへ行くと、プラスチックのものから昔懐かしいブリキ製や陶器製のものまで、たくさん売られている。


外気は氷点下11度になり、
室内の温度計が零度以下を示すしんしんと冷える夜は、
快適な湯たんぽも、冷気に押され気味で、
布団をすっぽりかぶり、足は湯たんぽに密着してしまう。


子どものころ、
我が家では、湯たんぽは乳幼児に使っていた。
やかんで沸かした湯を、母は湯たんぽの口から慎重に注いで口に栓をし、
布を巻いて弟の寝床に入れていた。
子どもが小学生になると、カンテキと呼んでいた七輪で豆炭や炭火をおこし、赤くなった豆炭を素焼き素材のコタツに入れた。
大人になって、電気のコタツが現れ、
そして電気毛布が登場した。


俳句歳時記の「湯たんぽ」の項を開けると、
「老人や子どもなどが使っていたが、今ではあまり見かけない道具になってしまった。」
と書いてある。
灯油高騰が、湯たんぽを復活させたのだろうが、
湯たんぽの温かさは、母や家族の心の温もりに通じるという発見が人気の要素になっているように思える。
タツも湯たんぽも、冬の夕方の子どもたちを含めた家族の仕事の一つだった。
暖を取るためには、暖を作らねばならない。
自分のために暖を作ってくれた。
家族のために暖を作った。
しかし、快適・便利生活が進んだ結果、
家族をつなぎ、家族に通い合う暮らしの作法も失ってしまった。
湯たんぽブームは単なる経済性だけで見るのではなく、
ものにまつわる暮らしの文化の発見にもなっていったらいいなと思う。


  歳時記にこんな句が載っている。


    湯婆(たんぽ)などむかしむかしを売る小店  朗平

    寂寞と湯婆(たんぽ)に足をそろへおり    水巴

    湯婆に湯そそげば鳴れり孤りなり       統流子

    湯たんぽの世を恋ひ眠くなりにけり      ただし