元時津風親方の担任の先生


           後悔


時津風親方が逮捕され、
元親方の中学校時代の担任教師が朝日新聞に投書を寄せられた。
丸木先生、75歳。


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 40年余前、両国中学校で教師をしていた時、教え子の母親から1通の手紙を受け取った。
 ふるさとの北海道を旅だった息子が相撲部屋でやっていけるだろうか、という不安がつづられ、
 息子への愛情があふれていた。
 教え子は山本君といった。
 体は大きかったが、兄弟弟子にもまれながらの毎日。
 母親はわらをもつかむ思いで、担任の私を頼ったのだろう。
 山本君は、成績もよく、人柄も明るく、素直。
 級友ともすぐになじみ、私は安心していた。
 山本君のしこ名は双津竜。小結まで昇進、ついに時津風親方となった。
 ところが、このほど傷害致死容疑で逮捕された。
 悲しむべきである。
 同時に、かつての担任として責任の一端を感じる。
 司直の下で、罪滅ぼしの意味でも、真相を明らかにすることを願う。
 今、当時の山本君に母の手紙のことを伝えなかったことを悔やむ。
 親の子への愛情や、命の尊厳などを教えることが出来ただろうに。
 担任した2年間に、命を大事にすることをもっと教えるべきだった。


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これが投書の全文である。
丸木先生の投書を読んで、いろんな思いが胸に湧いた。
記憶の中の教え子は、その当時の中学生のままで担任の心の中に生きつづけている。
成績もよく、人柄も明るく、素直だった山本君が、どうしてこんなことをしてしまったのか。
もっと教えることがあったのではないか、もっと生き方を伝えるべきではなかったか、
後悔の念が湧く。
報道では、元時津風親方は、自分の責任を兄弟弟子にかぶせようとしているという。
「全責任は自分にある。自分が指示したことである。弟子たちは私の指示に従わざるを得なかったのだ。」
真の親方なら、この事件の真実をごまかすことはしないだろう。
口頭で直接指示したかという事実問題とともに、無言の指示、暗黙の了承、見て見ぬ振りというのがある。
縦の力関係の強い集団では、ボスの思うところが集団の構成員の判断を狂わす。
ボスの意志を感じ取った構成員は集団の力で動いてしまうのだ。
縦の力で結束している集団では、異なる考えを出しにくい。
集団が動いていく方向と異なる動きをやれなくなる。
実権を持つものと、実権をもつものにしばられた構成員にまといつく力学である。
親方を権力の頂点とする部屋という組織で、人間集団はどのような考え方にしばられ、どのような心理に左右され、
どのような行動をとってしまうか、
それをえぐりだすことが元親方のなすべきことだ。
親方は、リーダーとしての責任を理解していない。
集団のかかえる「落とし穴」の真相を隠そうとしている山本君。
丸木先生の嘆きは、そこに行くだろう。
命の尊厳の教えとともに。


元担任だったからという責任、その責任を自分は自分のケースでかみしめることが多い。
教師という仕事は、そうなんだと思う。