志をもって生きる


       志


暮れの24日に中国を出港した若者たちが26日に神戸港に到着し、今期の日本語研修が始まった。
新しい世界に立つと、心と体全体が旅の世界を感受する。
海を越えてきた彼ら、
海を見たことのなかった内陸部の若者は、海原や水平線を湧き上がる感動をもって見つめていただろう。
神戸の街、そして関西から中部へ、バスで高速道路を走りながら、田園、湖、山や川を観た。
初めての外国、日本だ。


新しい世界、未知の世界に取り囲まれた若者たちの眼は輝き、
心臓が波打ち、
頭脳がフルに活動する。


迎え入れたぼくら教師団は言う。
これからは、耳を働かせ、口を働かせよ。
日本語研修を終えてから入る会社の中で、町の中で、日本人と会話ができるように。
言語は体験である。


働きながら君らは学ぶ。
技術を学び、言葉を学び、そして「日本」を知る。
中国も学歴社会、激しい競争社会。
君らはその奔流から離れて、働いてきた。
自分のために、家族のために。
君たちは日本の大学や大学院で学ぶ留学生ではないが、
「自分たちは働きながら学ぶ留学生である」という気概をもって、
志にむかって生きよ。
君たちのなかから、
将来、中国社会に大きな貢献をする人が生まれるかもしれない。
将来、日本と中国の友好に役立つ働きをする人が出るかもしれない。
将来、世界のために活躍する人が生まれるかもしれない。
志をもって生きよ。


日本の大学院で勉強している中国人留学生の教え子から手紙が来た。
彼女は今修士論文を書くための調査・研究をしている。


「フィールドワークで、長野県旧楢川村に行ってきました。
最初は中国と友好関係を持っている木曽漆器に興味を抱き、
中国輸入の原料漆と伝統工芸産地のオリジナリティについて調査するつもりでしたが、
産地として崩壊し始めている現状のなか、
私の予想が外れたところが多かったです。
(楢川村)二回目のとき、昔、満州開拓に行かれた方にインタビューできて、
すごく感動しました。
政府、メディアの言説や行動に関係なく、
民間で着実に日中友好運動を推進している方の話を聞いて、
自分の責任を感じました。
石川県の輪島にも行ってきました。
すてきな漆器工房を見学し、職人さんと交流し、とても楽しい思い出になりました。」

論文のテーマを何度も変更し、ようやく『漆をめぐる日本と中国の関係』にたどりついたが、
日本での調査と中国での調査と、困難が多いと書いている。


福田首相が中国を訪問、温家宝首相、胡錦濤国家主席と会談した。
来年は日中関係飛躍の年にしようと、政府間の一歩が大きく踏み出された。


今日の新聞の「ひと」に、「中日友好青島柔道館」の初代館長に就任した徐殿平さんの記事が出ていた。
徐さんは、テレビドラマで、「姿三四郎」を見て柔道にあこがれ、北京の紡績工場で働きながら、夜、体育大学で学んだ。
82年に故郷の青島に帰り、砂浜に子どもを集めて練習を始めた。
道場はおろか、柔道を知る人もいない。
柔道着は布を重ねて手作り。
「精神面を重んじる柔道の良さを伝えたい。」
とはじめた柔道の指導。


そして今、柔道館ができた。
アテネオリンピックで銀メダルをとった女子選手も出ている。
青島では、小学校の体育で柔道が採り入れられているという。