トイレへの通路完成

  

「休憩しまっしょ。」
孝夫君の大家さんの庭木の剪定に来ていた植木屋は、トラックからブドウを4房持ってきて、
2房をくれた。
「こういう工事は難しいね。ほう、柱は稲架かね。曲がってるから、たいしたもんだ。プロだね。」
「いやあ、素人、素人。ボランティアで造っているんです。」
孝夫君のトイレまでの通路の柱に稲架(はざ)を使い、屋根をかける。
稲架は下が太く、上が細い。さらにいくらか曲がっているから寸法をとると誤差が出てくる。
おまけに通路は途中で直角に曲がる。
だから植木屋のおじさんは、よくまあ、とほめてくれる。
「この倉庫に住んでいるのは、他県から来た農業青年でね。トイレも風呂もなかったから、造っているんですよ。」
「たいしたもんだ。おたく、何をしていたんですか。」
こういうおじさんと話をするのは楽しい。
「奈良から来たかね。やっぱり山が好きで?」
今の日本の青年の話から、農業の未来まで、休憩話は二人で盛り上がる。
「私は新潟出身でね。30年前に穂高町に住んでいるだ。」
話は、新潟地震から山古志村の話に及ぶ。
4時を過ぎると気温が下がってくる。
じゃあ、また明日。


3日後、屋根にトタンをはる。
5日後、壁面づくり。壁面には古サッシを使う。
材料は、我が家の近所でサッシの仕事をしている丸山さんからいただいた。
どこかの店の入り口に使っていたのだろう、6枚のアルミのガラス戸。
「処分するものだから、どうぞどうぞ、持って行ってください。」
丸山さんは、これまで使わずに倉庫に保管していたまだ新しいアルミの窓サッシもくれた。気前がいい。
困難な状況にある農業青年を支援しようという心持ちが、気前よさとなって現れる。
ガラス戸は柱の間を埋めるように固定する。
壁面にはると、通路は廊下状になった。


イベントなどで使われている電話ボックスのようなトイレ。
その後ろに開けられた小窓にガラスがない。
「風が吹き込んで、寒くて。」
と孝夫君が言う。
ここに入れるガラスもサッシ屋の丸山さんにいただいた。
それを木枠を作ってはめこむ。 


将人君一家4人が我が家に泊まりに来て、11月20日、帰って行った。
将人君もまた農業青年、子どもは1歳と3歳、
安曇野の牧場で12月から働くことになる。


20日の午後、トイレへの通路が完成した。
強風が吹いてもたぶん大丈夫だ。
孝夫君のお嫁さんのヒサミさんが、
「わあ、天国みたい!」
と喜んでくれた。
5時になると、あたりはもう暗い。
孝夫君は、大町の酒蔵へ杜氏の出稼ぎに行き、ときどき夜に帰ってくる。
来年、海外青年協力隊で行くアキラ君が孝夫君留守の畑を守り、ひとり実習している。