菊芋


         小春日和、ぼくは大工


倉庫の2階に住んでいる孝夫君たちへ、今、建物の外にある簡易トイレへの通路を作っている。
孝夫君がもらってきた「はざ」(稲架)の丸太を切った柱を立てていると、孝夫君の住居の大家さんが家から出てきた。
大家のHさんは、80何歳か、心臓が悪くて病院に数日入院して退院してきたところだった。
「だいぶ出来てきただね。よくやるね。」
トイレまでの通路は、倉庫の入り口に先日作った玄関から、倉庫の南側まで7メートルほど、途中で直角に曲げて造らねばならない。
土に穴を掘って、丸太を差し込んで柱にしていくのだが、柱との幅や高さをそろえ垂直に立てていくのに工夫がいる。
大家さんの家は今時の工法で建てられたりっぱな家で、おばあちゃんはそこに一人住まいしている。
大家さんの家と孝夫君の住む倉庫とは隣り合い、その間に電話ボックス状の簡易トイレがある。
「孝夫君は今日は菊芋を掘っているだね。菊芋は味噌漬けにするとおいしいだよ。」
「へえ、菊芋が食べられるんですか。」
「菊芋を洗って、皮をむいて半分に切るだ。それを味噌に漬けるだね。こりこりして、おいしいよ。」


アキラ君が軽トラックで帰ってきた。
倉庫の前に車をつけると、収獲してきた菊芋を入れたコンテナを下ろした。
見ると、サトイモのような、生姜のような、こぶこぶした芋だ。
「へえ、こんな芋が入っているのか。うちの庭にも菊芋の花が咲いていたで。」
「株ができるとそこからどんどん広がっていきますよ。」
我が家の庭にこの夏、引越しのときに持ってきた植物にくっついてきたのか、菊芋の株が二つ立ち上がり、花を付けた。
日照り続きで土がからからに乾いたときに、花はだいぶ枯れたりしていたが、
長い期間、菊にもヒマワリにも似た黄色な花が群がって咲いて、庭に彩を添えていた。
アキラ君は来年、青年海外協力隊に行くことを志願していて、孝夫君のところで農業実習をしている。


ホームセンターからその他の材木と屋根に葺くトタンも買ってきた。ホームセンターは、1トントラックを無料で貸してくれる。
12本の柱が立ち、胴縁を打った。
小春日和で、ぽかぽか暖かい。
孝夫君が、田んぼの周りの草刈りを終えて帰ってきた。
「明日から、杜氏です。」
孝夫君は、冬の間の出稼ぎで、隣の大町の酒造会社で杜氏をしている。
行けば春まで田畑の世話は出来なくなる。今日は今年最後の畑仕事だった。
「今年は、夜は家に帰ってこようかなと。」
昨年は、土日以外は泊り込みだった。
「これが菊芋です。どうぞ。」
地元の物産展での売れ残りの一袋を持ってきた。
物産展には菊芋のほか、自家製のエゴマ油とトマトジュースを出したら、1万9千円ほどの売り上げがあった。
初めてこれだけの収獲があったとうれしそうだった。


菊芋のポリ袋に小さな紙が貼ってあり、そこに手書きで説明が書いてある。
「デンプンを主体とするイモ類とは異なり、イヌリンという多糖類が主成分のキク科の植物です。
・皮をむいて油で炒め、ひき肉と一緒に煮て肉じゃが風に。
・皮をむいてそのままスライスしてサラダに。
・皮をむいて、短冊切りにして炒め、きんぴらごぼうと一緒に。
・皮をむいて、一口大に切り、ラップして電子レンジへ。お好みの和え物に。
  ネギ味噌・ゴマ味噌・味噌マヨ和え。
・味噌漬け、しょうゆ漬け、塩漬け、甘酢漬けなど。」
この文字は、たぶん新婦の字だろう。筆跡がやさしい。


調べてみたら、イヌリンは、腸内ではビフィズス菌などの善玉菌の餌になり、
腸を綺麗にし、消化吸収を良くし、
脂肪の吸収を妨げるとか。
糖尿病や高血糖など、成人病にいろいろ効能があるらしい。
菊芋は最近健康にいいとかで注目され、いろんなサプリメント剤にもなっていることを初めて知った。