米作り


          新米とゴーヤの佃煮を食べながら


孝夫君が作った、「無農薬栽培・天日干し」の新米を少しいただいた。
いやあ、うまかったこと、うまかったこと。
ゴーヤの佃煮で食べたら、「他には何も要りません」。
安曇野の米は、普通栽培でも、山からの水がいいのでおいしいが、孝夫君は有機・無農薬で、収獲した後、天日で乾燥させているから、
米本来のおいしさが卓抜している。
アイガモを田んぼで飼い、鴨たちが草を食べ、草を抑制してくれるという農法も取り入れているが、それはまだ全部の田んぼに行き渡らせるまではいかない。


ゴーヤの佃煮というのは、たった1本の苗から育った我が家のゴーヤが、8月までは2本しか収獲できなかったが、
9月に入ってから残暑と適度な雨で、つるをぐんぐん伸ばし6,7本できた、それを佃煮にしたものだ。
洋子が作った佃煮のレシピは、
ゴーヤ 1kg を、5mmほどの厚さに刻み、ゆがいて水でさらしてしぼる。
砂糖 250g、 酢 100cc、 醤油 130cc、 
そこに、ゴーヤを合わせ煮る。
ときどきかきまぜて、水分が少なくなれば、鰹節・チリメンジャコ・白ゴマを適量入れて、できあがり。


こうしてできあがった、少し苦味の残るゴーヤの佃煮を、新米ご飯のほかほかの上にのせて、いただく。
天与の、素朴にして深い味わい、これ以上のものはない。


いま、日本の米作りが大ピンチにある。
NHKが最近、特集を連続して報道しているが、
日本の技術が生み出したコシヒカリもアキタコマチも、アメリカと中国がさらに改良を加えたりして作り始め、
日本の価格よりも圧倒的に安く輸出し始めている。
すでに外食産業の米は、これら輸入物で、
米の貿易自由化、グローバル化による外国産の銘柄がスーパーに並び出せば、日本の農家に大打撃を与えることは必至だ。


日本人の米離れのうえに、米価の下落がとどまらず、
このままでは日本の米作りは滅びると、農家は危機を訴えている。
米作を放棄する農家もではじめた。
日本の農政は、農業の大型化、集約化に切り替えてピンチを乗り切ろうと方針を出しているが、
1戸の農家の田んぼが15ヘクタールという、日本の普通の1.5ヘクタールの10倍もある、実績20年の大潟村でさえ、経営が困難になってきている。
アメリカ・カリフォルニアでは、1戸 1200ヘクタールという広大な田んぼで、アキタコマチを作り、
日本に輸出する。


高齢化する農家、後継者不足、
それにもかかわらず、孝夫君のような徒手空拳の若い就農者を放置する農政。
ミニコミ誌に載った「譲ります」のコーナーでもらってきた、古い小型の手押し稲刈り機を使って、
今年も彼は稲刈りを済ませ、
米を天日に干した。
連日の労働で、腰を痛め、
彼は腰を少し前かがみに歩いている。


日本の水田農業が崩壊すればどうなる?
長い長い歴史の中で、農民たちが真夏も田水に浸かって作り続け、築いてきた水田。
すべての田に水を導入する水路の仕組み。
水を蓄え、地下水を潤す水田の巨大ダム効果。
村に生まれ、村人をつないできた稲作文化
全国に行き渡らせた水田という文化遺産
それらが滅びることは、文化の滅び、気象の異常変動にまで至るだろう。


孝夫君の米、トマトジュース、エゴマ油、小麦粉、味噌など、農産物は多くはないが、
農業にかける思いのこもる作物を購入したいという人に、
彼はかろうじて支えられている。