『鞄や yumu』

  


優子が京都の「喫茶&雑貨 ふふふ」で、自作のかばんを展示するという案内のはがきをもらった。
案内状の制作者名は「鞄や yumu」。
大阪からの帰りに寄ってやろう、どんな作品を作っているかな、
と、姪の結婚式に出席してその晩は神戸の息子の家に泊まり、
翌日京都へ向かった。
久しぶりの京都。
東本願寺の門前を通って裏通りを北へ向かう。
やっぱり京都の香りがただよう街中だが、昔の古い町家は姿を消して少ない。
時雨が来た。
雨宿りをしながら、小降りのなかを歩いていった。


優子は中学を卒業してから今年で19年。
何年か前からオリジナルのかばんを制作している。
だが、職業として成り立つところまではまだまだのようで、
それでも、作りたい、もっといいものを作りたいという意欲が少しずつ少しずつ技術をアップさせ、
独創性を育んできた。


「ふふふ」は四条通りから入った小さな店だった。
テーブルが三つだけの全く地味な店だ。
左の壁面に彼女の作品がぶらさげられている。
右の壁面には別の制作者の小物細工。
yumuの作品は、布製の鞄、リバーシブルの手提げとポシェット、布製のがま口など、
落ち着いた色合いで丹念な手作業の作品だった。
外も内側も、気を入れて作られている。


僕が着いてほんの少ししてyumuが来た。
久しぶりの再会がうれしい。
お茶を飲みながら話していたら、いきなり店に入ってきた人がいる。
優子のお父さんとお母さんだった。
娘の作品展を見に来られたのだった。
さらに来客があった。
僕がこの日やってくるのを優子から聞いていた充広・真紀が子どもたちを連れ、一家そろって大阪から来たのだった。
久しぶりの出会いで、「ふふふ」は賑わった。


優子の作品の内側に、「鞄や yumu」のマークが縫い付けられている。
「yu」は優子、「mu」は姓の頭、「鞄や」の「や」をひらがなにしている。
どうしてかな。
「屋」にするといかにも店の感じだから?
大阪弁の「や」は、「だ」「です」の意味だから、懸けているのかな。
これは「鞄です」と。
ここにも優子の心がある。


模倣から創造へ、
yumuのオリジナルがこれからもっと生まれてくるといいな。
僕は、眼鏡も入るし、ペンシルケースにもなると優子が言った、底の深いがま口をひとつ購入した。
優子には優子の静かな人生がある。
これから安曇野に造る工房に「鞄や yumu」も並ぶ日が来るだろう。