お神輿を担いだ中国人研修生

   

           国に帰るホン・シャ


――お祭りで、おみこしを担ぎましたよ。
私は3年間の研修を終え、いよいよ11月末に帰国します。――
奈良県御所市の縫製工場で働いていた中国人研修生、ホン・シャから、手紙が届いた。
御所市の公民館でボランティア活動をしていた「国際フレンドの会」は、外国人研修生に日本語を教えていた。
1年半前まで、ぼくもその活動に参加していたが、そこで教えていたホン・シャがいよいよ故郷に帰るのだという。


手紙の中に一枚の写真と地元新聞記事のコピーが入っていた。
写真は、ハッピを着たホン・シャと研修生たち。
新聞記事には、みこしを担いでいる写真が載っている。


ホン・シャの働いていた縫製会社は田舎の小企業で、5人ほどの外国人研修生を受け入れて稼いでいた。
繁忙期には朝8時から夜10時まで残業をしていた女の子たちは、日曜日の日本語学習の日は疲れているのだろう、時々休んで、来ないことがあった。
そのなかでホン・シャはいちばん若く、学習意欲は旺盛で、優秀だった。
日本に来て2年目に、日本語能力検定試験2級に合格、3年目の1級チャレンジが目標だったが、
今年の試験日の4日前に、滞在ビザが切れてしまうので、受験申し込みはできなかったと手紙に書いている。
手紙は便箋2枚、気持ちを伝えようと、心を込めて書いた様子が、まだうまく使いこなせない日本語の用語や構文に現れている。


「時間の経つのはなんとはやいことでしょう。そろそろ帰りますよ。
ここで3年間暮らしました。帰る前になんとなく名残惜しく感じています。
私のいちばん遺憾であることは、今年の日本語能力検定試験に参加できないことです。
けどこの試験は、中国でもありますので、来年中国で参加するつもりです。
1級めざしてがんばります。」


お神輿を担いだのは、鴨都波神社の秋祭りで、
奈良、岐阜、山梨から中国人、ベトナム人ら45人の研修生が参加したと、
新聞記事に書いている。
祭りには6基の神輿が出て、担ぎ手は140人。
記事の中に、ホン・シャの声も載っている。
「みなで息を合わせて力を入れるのが楽しかった。」
山梨や岐阜の外国人研修生が、遠いところをよく参加できたものだ。
どのように費用を捻出し、
奈良での宿泊をどのようにしたのか、ホームステイしたのだろうか、
この企画を生み、彼らを支えた国際交流団体の物語が、その背景に潜んでいる。
オーリャオイサ、オーリャオイサ。
神輿を担いだ日本人と外国人の間に、温かい友情が生まれたと、
参加した日本人の若者の声も掲載されている。


信州に遊びにおいで。
はい、遊びに行きます。
そう言っていたが、ホン・シャたちは結局一度も信州に来れなかった。
余暇がないことと、交通費の高さが、ホン・シャたちを旅行に踏み切らせなかった。
「仕事が忙しいので、北アルプスの姿を見るチャンスはなくなると思います。
北アルプスは、私の心の中の世外桃源(ユートピア)です。
3年間の研修はまもなく終わります。
3年間を通して、私の収獲はけっこうあると思います。
皆さんのおかげです。たいへんお世話になりました。
私たちの友情が、永遠に続いていくのが私の楽しみです。」
手紙の最後に、中国の住所を記し、
江蘇省が彼女の故郷で、中国に来たら、連絡して欲しい、会いたいです、と書いていた。