いっちゃんが、ペンションをオープンすると聞いて、洋子とYさん、3人で行ってきた。
場所は蓼科高原、北八ヶ岳の中腹にある。
空はピーピー晴れ渡り、行くならビーナスラインを通っていこうと、車で松本から美ヶ原に登り、
そこから蓼科をめざした。
標高2000メートルを越える美ヶ原の上からは、北アルプス、乗鞍、御岳、中央アルプス、南アルプス、
富士山、八ヶ岳、蓼科山と、
見えるわ見えるわ、
周囲の山が全部見渡せた。
槍・穂高も見える。
草原では牛が草を食んでいる。
松虫草が咲いている。
ビーナスラインをくねくね走り、
霧が峰から白樺湖に下って、蓼科高原に着いたら11時を回っていた。
『ひこう船』は、すぐに分かった。
白い洋館の建物は、落葉松とミズナラの森の中にあった。
無垢の木をふんだんに造作に使った木造の建物は、
使いこまれた生活感があって、落ち着いた雰囲気だ。
ウッドデッキのテラスで、これから客を迎えるときのメニューで食事をいただいた。
心のこもった食事はとてもおいしかった。
標高1700メートルの高原だから、気温も22度、
下界の猛暑と比べ、森の涼気が心地よい。
いつもひょうひょうとして、
のんびり構えて生きていた彼女の、
静かなエネルギー。
笑顔を絶やさず、
長い長いいきさつを話した。
長年胸の奥にしまっていた夢が、病を克服してから、ある日勃然と湧き起こり、
不可能という結論を導くかと思われる自分を取り巻く否定的条件の重なりを、
彼女は一つ一つクリアしながら、
実現するかしないか、やってみようと動いてきた結果が、
ペンション「ひこう船」の、9月1日オープンになったのだった。
パートナーの夫は病でなくなり、人生最後の夢実現の階段は、20代の娘と二人で登ってきた。
若いころからやってきた山登りが、信州の山を選ばせ、
一歩一歩が夢を実現するという、心身に染み付いた登山の習性が生きている。
男手なしに、中古ペンションの購入から、営業に向けての準備。
娘と二人の二人三脚が動き出してから、多くの出会いがあり、
サポートしてくれる人たちを生み出していった。
今は、地元の人たちのなかからも応援してくれる人が出てきている。
計画は、成功するか失敗するか、そんなことは分からないし、心配しても仕方がない。
いまどき、ペンションは当たらない、と反対する人のいるのも、
宿泊してくれる客がどれだけいるか、見通しがたたないからだ。
だが、人間の求めているものは、時代がどのように変質しようとも、
変わることはない。
現代だからこそ、自己復元の、心安らぎ、いやされるアットホームな宿に人は来る。
今、生きている、生きているからやってみる、
それだけのこと。
歩きながら、考えていくことだ。
「夢」イコール「生きること」。
夢を追うのは、生きているときにしかできない、生きている証。
『ひこう船』のメールアドレス hikousenn22@yahoo.co.jp