静止して五感を働かす    


     野の真ん中で立ち止まる


動いている自分から止まっている自分に、
そこに身をおくと、
別の人間のように変化する。


朝のウォーキング、
野の真ん中で立ち止まり、
歩き人間から、静止人間に自分を切り変え、
今まで動いていた足の代わりに、
集中して五感を働かせる。
背中に吹いてくるそよ風が、
たちまち汗を冷やしていくよ。
聞こえてくる、流れる田の水路の水音、
鳥の羽ばたき音、
カルガモが休耕田を泳ぎ、くちばしを水に突き刺す音。
モンシロチョウが畦の草に咲く花を渡っていく。
無音の音がある。
ノカンゾウの花が咲いている。
首をぐるっと360度めぐらす。
空を見る。
上層の雲と下層の雲が交差し、
その隙間から青い空がのぞいている。
はるかな宇宙がのぞいている。


おれは、じっと野に立つ。
動物の体から、植物の体に変わっていく。
植物になると、同じ景色が別の心を表していることを感じる。
草はそこに生え、木々はそこに育ち、
田畑の作物もそこに生り、
動くことなく生涯を終える。
彼らは野のそこにいて、動かず、そして宇宙の万物と交信している。
植物にも心があると、
それを研究している人がいた。
そうかもしれないという気がしてくる。
おれは今は、植物。
動いているときとは異なる感覚。


山に登る。
足を踏ん張って、一歩一歩登っていく。
休憩!
荷を降ろし、息を継ぎ、汗をぬぐい、岩に腰を下ろす。
じっと動かず。
たちまち聞こえ出す山の音。
森の声。
空の歌。


おれは今、仕事を休んでいる。
働き人間であったときの体の芯に残っている疲れが、
吐く息となって出て行く。
静止して、木を見る。
草を見る。
鳥を見る。
空を見る。
肌にしみこんでくる宇宙の風がある。