桑の樹に蚕らしきもの



桑の樹の生長は、猛烈に速い。
たちまち枝を四方や天に伸ばし、大きな葉を茂らせている。
庭に自然に生えてきた樹は勢いが良すぎて、境界線からはみ出していく。
大胆に剪定して、枝と葉を畑の畦間に細かく刻んで入れているが、生長が速いだけに柔らかい。
剪定した一本の枝に、あれっ、頭をもたげて眠っている虫、蚕そっくりではないか。
子どものころ、箱で飼ったことのあるあの蚕とは違うが、姿は蚕そのものだ。
蚕の色は白かったが、目の前の蚕らしきものは、少し別の色が混じっていて、ひとまわり大きい。
蚕は、野生では生きられない。そうするとこの蚕らしきものは野生種の蚕の原種なのか。
天蚕(てんさん)と呼ばれるヤママユは、ナラとかクヌギの葉を食べるし、色は緑だから、これはヤママユではない。
卵を産みつけた蛾は、桑を選んで飛んできたのだろう。どこから来たのだろうか。
蚕らしきものは、枝を這い出した。
観察してみよう、桑の樹に戻す。


それから数日後、桑の樹を観察したが、あの虫が見つからない。
小鳥に食べられたか、それともどこかに隠れているのか。


畑の中から見つかったあの鶏のような卵、土に戻してやってから2週間ほどして、畦間に割れた卵の殻を見つけた。
埋めた動物か別の動物か、何かが掘り出して食べたらしい。
これもまた謎。


連日のかんかん照り対策で、この夏は夕方の水やりが一仕事だ。
ポリタンクを2個、一輪車に乗せて、100メートルほど離れたところにある農業用水路に水をもらいに行く。
タンク2本の水を畑や庭にまききったら、また汲みに行く、延べ10タンクか12タンク。これが夕方の日課
全部まき終わったら、7時を過ぎている。
二日前、西の山から湧き起こる黒雲に期待していたが、やっぱり降らず、水汲みに行かなければならなかった。
だから、昨日も雲が広がってきたけれど雲の厚みが足りないように見え、期待はずれだろうと、2本のタンクに水を汲んで帰ってきたら、
田んぼの向こうから、ざわざわと耳慣れない音が野一面に起こり、この音はいったい何だと西山のほうを見ると、雨脚が迫ってくる。
雨が来る。
近寄ってきた雨脚はたちまち篠つく雨となった。
おうおうおう、降れよ降れよ、
半時間ほど天は雨を施して、雨雲は去っていった。
ありがたい、今日は水遣りせずにすむ。

空に満月が出た。