カミキリムシ


          怪力カミキリムシ


頭のほうを斜め上に立てたようにして、ブーンとひどくゆっくり飛んでいる。
あの飛び方はカミキリムシだ。
今年はクロスグリの実がたくさん生った。
クロスグリブラックベリーともいう。
今はまだ赤い。もうしばらくすれば黒くなり、そうすれば収穫して、ジャムにする。
我が家では、洋子がこのジャムを作る。
ブルーべリーのジャムもおいしかったが、ブラックベリージャムもおいしい。


背丈1メートルほどのクロスグリの木の先端に、そのカミキリムシは止まった。
ぼくは、部屋から急ぎ出て庭に行き、虫の止まったあたりを目で探すと、やはりいた。
ゴマダラカミキリだ。


去年、奈良から持ってきて、順調に育っていたキンカンの根元にこれがいて、樹幹に穴を開けていた。
幹を空洞にされたキンカンは元気を失った。
カミキリは木の中に卵を産み、その幼虫が木を食い荒らす。
致命傷は安曇野の冬の寒さだった。キンカンはそれに耐えられなかった。
木は完全に枯れてしまった。
かんきつ類は、温暖な地方のものだから、ここでは育たないのは当然かもしれないが、
それでも、あの大穴を開けられなかったら、木の勢いは弱められることはなく、こんなに簡単に枯れはしなかったろう。
去年キンカンに穴を開けた一匹は、それより数日前に発見してつかまえていた。
つかまえはしたが、直接殺すのは忍びないから、石ころの下に逃げられないように入れておいた。
そうするとあの怪力で、カミキリは逃亡し、
キンカンに穴を開けてしまったのだった。


クロスグリの実に止まっていたカミキリを指でつかまえると、
逃げようともがく。
小さな体の割には、怪力で、少しずつ体がずれていく。
名のとおり、かむ力も強力だから、指をかまれないようにして、
再び手のひら大の石の下にとじこめた。
今年は簡単に逃がしはしないぞ。
ところがまたもカミキリは逃亡した。
それはぼくがうっかり牢屋の石を、赤カナメの挿し木苗の覆いの重石に使ってしまったからで、
後から気が付いた。
そうだ、あのカミキリはどうなった?


それから数日後、カミキリはバラの木に止まっていた。
たぶん、あのカミキリだ。
つかまえて、しげしげ眺め、さあどうする。
今度は、土の牢に入れて、
これでカミキリはお陀仏だ。
小穴を掘って、その中へ。


残酷な話だ。
逃がしてやったらいいではないか。
そうかもしれないね。
だが、去年植えた白樺もモミジも、今年は元気に伸びているし、
今年植えた赤と白の二本のライラックも活着した、
カミキリの好きなそれらの木の幹に、
このカミキリはまた穴を開けること必定だ。
かわいそうだが、人間の勝手で、すまんのう。


ひょっとしたら、あの怪力カミキリ、また土中から逃亡したかもしんれん。