草刈り


      土の命

草刈をした。
1メートルほど段差のある畦(あぜ)の斜面、
我が家の畑ではない。
我が家の裏の、たまねぎ畑の主は、簡単に除草剤を使う傾向があり、
庭に隣接するここは私が草刈するから、
薬は使わんといてください、
と頼んだいきさつもあって、ときどき思い出したように草を刈る。
奈良にいたときは、借りていた一反の畑の周囲を草刈機で刈っていた。
ここでは、草刈機を使わないで、手鎌で刈る。
時間がかかるが、たいした苦労でもない。
幅2メートル、長さ30メートルほどの斜面、
名前の知らない草が、無数に生えている。
梅雨期だから、地面がしっとり露を含み、
大ミミズが草陰の地表に出てきて、ムチムチ光っている。
ミミズの地面のなかに潜り込む様子を観察した。
硬い地表は潜れない。
やわらかい土の、潜れる部分に先端を突っ込むと、
1秒に1センチほどのスピードで、体を押し込んで、
しばらく休み、そしてまた押し込んでいき、
1分ほどで全身を土の中に潜り込ませた。
モグラに追われて、地中から地表に逃げてくる大ミミズを奈良にいたとき見たが、
このときは、ミミズのスピードに驚いた。
必死になるとミミズも速い。
土をかいて近づくかすかな振動に気づくと、
ミミズは安全な地上へ脱出しようとして、必死に逃げる。
逃がすものかと追うモグラの上の、
土がもこもこ動いていた。


畦に、一本の桑の木が、枝を伸ばしていた。
去年はなかったから、この1年で芽を出し、
伸びてきたのだ。
いま桑の実がなる時期で、
近くの田の畦にある桑の木に実ができていて、
赤から黒に色が変わると食べごろになる。
先日、少し食べた。
今日見つけた桑の木の子どもは、そのまま残しておいた。
カマキリの子どもは1センチほど、
こんなに小さくてもいっちょまえ、鎌も持っている。
5ミリほどのクモが卵を抱えて走っている。
小さな甲虫がはっている。


生える草の種類は、どんどん変化する。
去年の種類と異なるものが、今年は生えている。
シロツメクサもある。
今年はイネ科の草が増えている。
野イバラが一本生えていた。


草刈機では、見えないものが、
手鎌では見られる。
土のにおい、草のにおいを
かぎながら、草を刈る。