古い戸棚


       安曇野まで運んでくれた戸棚


ランと行く朝の散歩の途中、
ブルーベリーの収穫をしている女の人がいた。
訊いてみると、1キロほどならお分けしてもよい、ということだったから、
ブルーベリーが欲しいと言っていた奈良の北さんに買って送ってやった。
ジャムなら、きび砂糖で作るのがいいよ、我が家で作ってみたら、最高のジャムになったから、
と手紙を入れた。


雨が上がって、大きな虹が、西の山を背景に完全な半円を描いた。
カッコーが鳴いている。
昨日、羽島の骨董屋が、夫婦で古い戸棚を運んできてくれた。
店で、食器棚のような、そうでないような、それを見たとき、
すぐれた細工物ではないが、
昔の庶民の生活のしみついた素朴さ、頑丈さが気に入って、
値段を聞いてみたら、安かったから、購入することにした。
ところどころ、ネズミがかじった傷痕があり、
手垢で汚れている。
元の持ち主は、要らなくなって処分したかったしろものだろう。
おやじさんは、ヒノキづくりだと言った。
いまどきの合板の家具よりはるかに重厚で、値段も安く、
大いに気に入った。
こんなものは、買ってくれる人がいて、値が付く、
買ってくれる人がいないと、ゴミとして処分するしかない、
というのが、おやじさんの口癖。
縦も横も160センチあるものだから、どうして運ぼうかと考えていたら、
おやじさんが、
まだ行ったことのない安曇野へ夫婦で行ってみたいから、
高速道路の料金を出してくれたら配達するよ、
ということで配達してもらうことになったのだった。
ちょうど雨が上がっている午前中に、ワゴン車に積んできてくれた。
ポンコツ車だから、中央道の坂道でスピードが落ち、こりゃ坂を上れないかもと心配しましたよ、
と道中を語ってくれたが、結構な早さで到着した。
一服してから予定を聞いたら、
どこか今夜、安曇野の公共の温泉宿に泊まりたい、と言うから、
紹介してあげた。
この戸棚の代金で、今夜温泉に泊まることができますよ。
そばを食べて、温泉につかって、
明日は、碌山美術館に行きたいですな、
おやじさんは、安曇野探訪を楽しみにしていた。


戸棚をきれいに拭いた。
重曹水で、何度も拭いた。
拭いても拭いても、雑巾は真っ黒になった。
塗りではない、元は白木の家具だったから、
生活の垢を拭き取ったら、自然の年輪の色艶がある。
今度我が手で建てる工房にぴったりの家具だぞ、
と、ひとり満足している。


蕎麦は、食べきれないほどでしたよ、
宿は最高の温泉ですよ、
夜に温泉宿から、おやじさんの、うれしそうな電話がかかってきた。