雪降れり


       雪の日は雪の日の心


今朝から雪が降り、
昼まで舞っては止み、舞っては止みしていた。
雪降る日は、人も鳥も、物もしんと静まり返っている。
雪の日は、人の心を、雪の日の心に変える。
「この日、雪降れり」
詩の一節が浮かぶ。
室生犀星の詩だった。


 此の日雪降れり
 此の日我心鬱せり
 此の日我出で行かんとはせり
 何者かに逢はん望を持てり
 何者かに、──
 何者かに留めがたき友情を感ず、
 友情的なる縹渺を感ず、
 此の日雪降れり、
 友情的なるものを痛感せり、
 雪の中に我出で行かんとはせり。


雪の降った日、
子どもたちは解き放たれたようにはしゃぐ。
グランドに出て、天を仰いで雪片を口中に受け止め、
積もっている雪を手のひらにすくい、
たちまち雪遊びが始まる。
そんな日に、いつものような、昨日の続きの、
教科書どおりの授業をするのは野暮なことだ。


雪の日はいっとき雪と遊ぶ。
雪を体全体で感じ取る。
その日の教科書は雪だ。
野へ出れば、野は昨日の野ではない。
川へ行けば、川は昨日の川ではない。
公園へ行けば、昨日の公園ではない。
どこもかしこも、雪の物語。


この日は、
雪の物語をからだいっぱいに、
心いっぱいに、
満たす日。