賞味期限切れの品物


       賢い主婦は‥‥


ぼくは最近、自炊している。
三日に一回はスーパーへ行って食材を買う。
牛乳は、カスピ海ヨーグルトを机の上で作って、毎日飲んでいるので、
1リットルパックを買ってくるが、
賞味期限の日付は、ほとんど見ないで買うことが多い。
夕方に行くと、賞味期限近くなったいろんな食品が、値引きして売っている。
それら賞味期限切れ間近の、豚肉や食パンをよく買う。
賞味期限の日付が明日になっていても、冷凍すれば、何の心配もない。
期限が切れたものを解凍し、安心して食べている。


晦日の新聞の、一面広告、
大きな文字で次の三行が並んでいた。


賢い主婦はスーパーで
手前に並んでいる
古い牛乳を買う。


そして、左隅に小さな文字でこう書いてある。


自宅の冷蔵庫に新しい牛乳と古い牛乳があれば、どちらから飲みますか。
古い牛乳からですよね。‥‥

新しい牛乳から売れていくと、そのぶん古い牛乳は売れ残ってしまいます。
日本では毎日約2000万人分の食料が、賞味期限切れなどの理由で捨てられています。


日本新聞協会の広告だった。


消費者は、新しいものと古いものが並んでいれば、新しいものを買う。
安全だという考えからだろう。
しかし、賞味期限の日が過ぎれば、食べられないというものではない。
新しい日付のものを買ってきた人が、冷蔵庫に入れて結局何日も置いておき、
期限切れでも食べることがよくある。
自分のものなら、捨てないで食べようと古いものから食べていく。
それが、店のものなら、新しい日付のものを買わないと損だ、という意識が働く。
結局、そうして売れ残った期限切れのものは、捨てられる。


妻もその広告を見ていて、話題になった。
「捨てるなんてしないで、なんとか活かせないのかねえ。」
「捨てないで飼料にしたらいいのに。」
「飼料にもなっていると思うよ。」
「期限が切れる前に、もっと安くして売りつくすことができたらいいのにね。」
「それにしても、この広告、もう一工夫いるなあ。」
「賢い主婦は‥‥古い牛乳を買う、というキャッチコピー、
『賢い』というのがもうひとつよねえ。」
「じゃあ、こうやれば?
バカな主婦は、新しい牛乳を買う‥‥」
「それも変、変‥‥。」


売る者と買う者の二極があり、
いかに自分の方が得するか、
それだけで経済が動いていくと、
商品は地球の資産だという意識が欠如する。
地球の資源を使っているということ、
地球環境に影響を与えているということ、
重要なそれらがすっ飛んでしまう。