生と死


       ミントと観葉植物


ペットボトルの上を切り取った下半分に、
公園から腐葉土を取ってきて入れ、
夏の終わりの散歩のときに、
同僚が摘んできたミントの蔓の先端をそこに差した。


宿舎の部屋の窓際に置き、
ほんの少しずつ水をやっていたら、
新しい葉が出てきた。


秋の半ば、ぼくがそこを去ったあと、
ミントは別の同僚の宿舎に置かれ、
ほそぼそと生きながらえていた。
秋が過ぎ、冬の声を聞いて、ぼくはまたやってきた。
ミントは、事務室の窓の、
ブラインドとガラス窓との間に、人知れず置かれ、
生きていた。
おうおう、生きていたか。


ぼくは早速事務室の机の上に置いて、水をやり、
公園から取ってきた腐葉土を積み足して、根本に苔をのせる。
その間もミントは、強い香りを放って、自己をPRする。
数日経つうちに、ミントは暖房の効いた部屋の中で、
新芽を伸ばして元気になった。
毎日見守られていることが分かるのか、
応えるように新芽が増える。
ぼくの机の一点に、小さな命の、緑の森があるうれしさ。


古教室の片隅に、忘れられた観葉植物の鉢植えの木が、
九割方枯死したまま置かれていた。
数本の枝は完全に枯れ、
たった一本だけが緑を残している。
生きている動物は100%生きており、死ねば100%死んでいる。
しかし、植物は、99%死んでいても、1%生きているということもある。
その観葉植物は、99%死んでいた。
生き返るか、完全に死んでしまうか、
よし元気を取り戻してやろう。


ぼくは、その鉢を持ち帰り、事務所のミントの近くに置いた。
根鉢はからからに乾燥して、
すこんと、鉢から根鉢が抜ける。
おまえ、わずかな水分だけで1%の緑を保っていたのか。
そのまま忘れられて、
冬のさなかに枯れてうち捨てられる運命だった木への、
救助作戦。


20度の室内、
ぼくは、飢えた人間を救出したときのように、
わずかな水を、根っこに与えた。
奇跡が起こるか、起こしてやろう。


観葉植物の一本の緑の枝に、
変化の兆しが現れるのをぼくは待つ。
生命力を見守る楽しみ。
命の芽吹きを待つのは楽しい。