技能研修生たち


    志を果たして いつの日にか帰らん
      ――研修所から彼らは出発して行った――


<式の最後にみなさんは「ふるさと」を歌います。
その3番は、「志を果たして いつの日にか帰らん」でしたね。
心に決意したこと、それをやり遂げてふるさとにいつの日か帰ろう、
山は青きふるさと 水は清きふるさとへ、
そういう歌詞です。
みなさんは志を抱いて、目的をもって、日本へきました。
みなさんの志とは何ですか。>


中国で二箇月、日本に来て一箇月、
ひたすら日本語学習に打ち込む充実した研修所での三箇月が過ぎて、
技能研修生たちは、三箇年の研修・実習に従事するためにそれぞれの企業へ出発していく。
午前十時から閉講式が行なわれた。
彼らはこの日に向けて、「出発に当たって」という作文を書いていた。
日本の印象、研修所での日本語学習の感想、
そしてこれからの3年間にむけての抱負と、帰国後の夢。
彼らはその一部を「出発の言葉」としてひとりひとり発表する。
そして最後に、日本の歌「ふるさと」を歌うことになっている。
式の中でぼくは研修生たちにメッセージを贈った、テーマは「志」。


<作文の中に、たくさんの人が「親孝行したい」と書いていました。
また、みなさんの中には、何人かのお父さん、お母さんがいますが、
その人たちは我が子のための希望を書いていました。
父母のために、子どものために、
家族のために、自分のために、
目的をもってみなさんは日本にやってきた。
その本当の目的は何でしょうか。>


多くの研修生の親は農民で、
辛苦して子どもを育ててきた。
親を楽にしてあげたい、まずそれが彼らの念頭にある。
幼児を持つ若い親たちは、子どもの進学の夢を持っている。
自分自身のことでは、事業を起こしたい、会社・店を作りたいという男性や、
通訳や日本語教師になりたいという女性がいる。


<みなさんは志を立てて日本に来ましたが、
みなさんのほんとうの目的は、家族を幸福にしたい、自分も幸福な人生を送りたい
という願いの実現だと思います。>


金を稼ぐために、ということを彼らは第一義の目的にしている。
そして日本の技術や日本語を学ぶ‥‥。
だが金はほんとうの目的だろうか。
ほんとうは、家族を幸福にしたい。
自分もみんなも幸福になりたい、
それが目的ではないか。
猛烈な勢いで経済発展の進む中国、
格差がどんどん大きくなる。
大都会のなかの目もくらむような豊かさと、
地方の農村の、収入は少なくとも人情の生きる生活。
彼らは、そこからチャレンジしようとする。


地方の農村の人々は、家族や村人みんなで生きてきた
都会とはまったく別の歴史を持っている。
農村に流れる時間は、都市に流れる時間とは異なる。


文明の発展は都市を生み、別の価値観へ導いた。
貧しい農村が、貧しさから脱却して、もっと豊かに暮らす道はないものか、
彼らは、中国の農村の若い労働力を求める日本の企業という道を選んだ。
資金を稼ぎ、技術を学び、それを元手に新たな展開をめざそう。


かつて日本でもとうとうと農村青少年が、大量に都会の企業へ流出した。
そしてまた農村住民が家族ごと、海外へ移民もした。


目くるめく都会が本当の幸福をもたらすものなのか、
農村のなかで幸せを生み出せないだろうか。
閉講式の最後に、研修生の全員が「出発の言葉」を発表した。
研修所での日本語学習に優秀な成績を上げた青年は言った。
「わたしは、三年後、ふるさとの会社にもどって働き続けるつもりです。」
ふるさとの会社に帰る、
ふるさとで幸せに生きよう。


<三年後、みなさんは必ず無事に元気に中国に帰るのですよ。
一人も欠けることなく、ふるさとに帰るのですよ。
私たちは、あなた方を見守り続ける応援団です。>