心に残る子どもたち(1)


     落語


モリムラくんは、体が小さい。
モリムラくんの声は、かすれている。
モリムラくんは、運動が苦手。
勉強はまあまあ、普通。


モリムラくんは、落語が得意だ。
モリムラくん、学級寄席をやりたいと言う。


じゃあ、モリムラくんの落語会やろう。
学級活動の時間にやってよ。


モリムラくん、家からざぶとんをもってきた。
茶の間でいつも使っているざぶとん。
モリムラくん、ざぶとんを、先生の机の上に置いた。
モリムラくん、靴をぬいで、先生の椅子を踏み台にして、教卓に上がった。


小さなモリムラくんは、ざぶとんに正座した。
黒板を背にしたモリムラくんは、背が高くなった。
モリムラくんは、みんなを見下ろす。
クラスのみんなは、自分の席からモリムラくんを見上げた。
モリムラくん、貫禄、かんろく。


「ええー、お笑いを一席……」
一人舞台が始まった。
モリムラくんの首が、右に左に伸びて、
生まれた子に名前を付けてもらいに来た親と、
名前をつけるお寺の住職が会話する。


「ジュゲムジュゲム ゴコウノスリキレ 
カイジャリスイギョノ スイギョウマツ
ウンギョウマツ フウライマツ クウネルトコロニ
スムトコロ ヤブラコウジ ブラコウジ 
パイポパイポ パイポシューリンガン
シューリンガンノ グーリンダイ
グーリンダイノ ポンポコピー
ポンポコナノ チョウキュウメイノ
チョウスケ」


長い名前やなあ。
パチパチパチ、
先生は窓のそばで、ニコニコ笑って見ていた。
モリムラくん、またやってね。