「銀河鉄道の夜」ブルカニロ博士の言葉


       ほんとうの考えと うその考え(1)


「ああ、わたくしもそれをもとめている。
おまえは、おまえの切符をしっかりもっておいで。
そしていっしんに勉強しなきゃあいけない。
おまえは化学をならったろう。
水は酸素と水素からできているということを知っている。
いまはだれだってそれを疑いやしない。
実験してみると、ほんとうにそうなんだから。
けれども昔は
それを水銀と塩でできていると言ったり、
水銀と硫黄でできていると言ったり、
いろいろ議論したのだ。
みんながめいめいじぶんの神さまがほんとうの神さまだと
言うだろう。
けれどもお互いほかの神さまを信ずる人たちのしたことでも
涙がこぼれるだろう。
それからぼくたちの心が
いいとかわるいとか議論するだろう。
そして勝負がつかないだろう。
けれどももしおまえがほんとうに勉強して
実験でちゃんとほんとうの考えとうその考えとを
分けてしまえば、
その実験の方法さえきまれば、
もう信仰も化学と同じようになる。」


宮沢賢治の作品は、
これが出来上がりの最終の作品と言えないほど、
書き換えをしています。
風の又三郎」も「銀河鉄道も夜」もそうです。
つねに未完成です。
このブルカニロの言葉のでてくる「銀河鉄道の夜」もそうです。


ここで「信仰」と言っているのを
「信じ込むこと」
と考えます。
「化学」は「科学」と考えます。


これがほんとうのことだと信じ込んで、
それぞれ自分の神様をつくって、
それは宗教の場合もあれば、
イデオロギーの場合もあります。
そうして一歩も譲らないで対立して、
殺戮までやっている。
そのことはとどまるところを知らない。


ほんとうの考えとうその考え、
それを見分けることができないか、
どうすればそれができるか、
大きなテーマの提示です。
この場合の答えというのは、何でしょう。
銀河鉄道の夜」には、こういう問題も出てきます。